恐竜と神園
月見達の集団は、町中をぐるぐると回り、美由達の学校の近くまで戻ってきていた。
「ねぇえ学校に戻ってきたわよ。本当に大丈夫なの?」
先頭から二番目を走る月見が、すぐ後方を走っている神園にそう言った。
「メリーの鼻は確かだよ。臭いを見失ったそぶりもないし、恐竜が前に通ったルートとも重なって無いし。」
「なら良いんだけどね。」
「なあ。後ろのやつらさ。邪魔だから帰って貰うわけにはいかないか?」
「何でよ。」
「いや、正直、こんな緊急性の高い仕事で、これだけ積極性に欠けているとなると、足手まといにしかならないというか。」
「失礼な事を言うわね。これでも、新進気鋭のエリートを集めた精鋭部隊なのよ。」
「新進気鋭のエリートねぇえ。今の処、まともな仕事をしている処を見てないだがなぁあ。処でさ。一つ聞きたいんだが、いいか?」
「何よ。」
「えっと、恐竜を何が何でも叩きのめしてから、捕らえないと駄目なのか?」
「はあ?言っている事が良くわからないんだけど。」
「いや、一時間ほど前に恐竜と出くわしたとき、あの恐竜は明らかに怯えていただろ?それに、向こうからこちらに攻撃してきてもいない。ただ、ひたすら、私達から逃げているだけだ。」
「そうね。でも、一般人二人を襲おうとしてたでしょ?」
「そうか?あの二人はあの恐竜が見えているのに、逃げようとしなかった。私達がすれ違った時も随分と余裕がある顔をしてたぞ。」
月見はバス停のいすに座る二人を思い出す。確かに怯えている様には見えなかった。
「それに、言葉をしゃべっていただろ?」
「日本語をしゃべっていたわね。それが何?」
「いや、わざわざ、叩きのめさなくても、話し合いで解決できるんじゃないかと思ってな。」
「それも、そうね。でも、私達、結構酷い事をしたから、多分、信じないかもよ。」
「だよなぁあ。」
『風が出て来たな。早くしないと雨が降ってくるな。』
恐竜になったハヤブサは、校門の前で倒れていた。
「疲れたでやんす。もう、動けないでやんす。あっしは、このまま、あの怖い人達になぶり殺しにあうでやんす。」
風は止み、雨がしとしと落ちて来て、恐竜の体にあたる。
「あのー。」
誰かが、声をかけてきた。
恐竜は目を開ける。
そこにいたのは、美由だった。
「あ、姉さん。助けに来てくれたんで?」
「いいえ。」
「そうですか、そうですよね。あっしもここで年貢の納め時でやんすね。」
「そんな死ぬみたいな。」
「いえいえ、あっしを襲ってきている怖い方々にリンチされ殺されるんです。」
「あの、その事なんですけど、彼等に素直に捕まって貰うわけには行きませんか?」
「あっしに死ねと?」
「そうじゃなくて、私が仲介に入って、彼等と話合いますから、素直に捕まっていただければ、多分、攻撃を受ける事は無いと思うんですよ。」
「なるほど、で、捕まった後、あっしはどうなるんで?」
「分かりません。でも、酷い目に遭わさないように必死にお願いしてみるつもりです。」
「そうでやんすね。姉さんだったら、この身を預けても良いです。」
「すいません。」
「姉さんが謝る事じゃありませんよ。」
雨降る道路の向こうからメリーが駆けてくる。
その後ろから、月見と神園が姿を現した。
「あんた。」
美由は恐竜の背中をさすりながら言う。
「すいません。この恐竜さんに酷い事しないでいただけますか?」