黒猫が月見の部隊を評価する。
「おや、魔法少女様。お家に帰ったんじゃ無いので?」
夜道を歩いている美由の頭上から、そんな声が聞こえてきた。
美由は声した方へ顔を向ける。携帯電話用の通信アンテナの鉄塔の上に黒猫がちょこんと座っていた。
黒猫は鉄塔から飛び降り、鉄骨を滑る様に降りてくる。
「一応帰りましたよ。ほら、服が違うでしょ。」
「今日はいつもの白い服では無く、黒っぽい服という事は、やはり関わるつもりなんですか?」
「わかりません。」
「先ほども言いましたが、今回の件は、人間の退魔師達が恐竜を捕まえる事が出来なければ、我々も含め全員が不幸になります。事が上手く運んだとしても結末はかなり嫌なモノにしか成りようが無いです。それに、あなたがやれる事は多分、何も無いですよ。」
「多分、そうなんでしょうが、それでも・・・。」
黒猫は首を左右に振る。
「魔法少女様。今回の件は、全く関わらない事より、中途半端に関わる方が、かなりたちが悪いという事が理解出来てますか?」
「頭では分かっているつもりなんですが・・・。」
「いいですか?世の中には見殺しにする勇気というのも必要なんです。布団に入り、眠りにつこうとしても、心がざわつき、後悔の念がずっと襲ってきて、眠れなくとも、その感情を押し殺す勇気というのが必要な時もあるんです。」
「・・・・・・・・。」
「まあ、いいでしょう。私も強引にあなた様を家に帰そうとは思わないので。あなたが傍観者に徹しきれるのであれば、私はとくに止めません。」
「ありがとうございます。処で、どうなんですか?」
「そうですね。状況はあまり良くありません。」
「どうしてですか?恐竜さんが見つからないとか?」
「それも、あるにはあるんですが、それはあまり問題ではなく、正直、それ以前の問題というか・・・。」
「どういう事です?」
「簡単に言ってしまうと、追っているチームがまるで駄目なんです。あれでは捕まえられるものも、捕まえられない。」
「二日前の夜、彼女達に会った時は、皆さん優秀そうに見えましたが。」
「優秀な人材を集めても、優秀なチームが出来るとは限らないんですよ。私の経験から言わしてもらえば、そうして集められたチームは、大抵、駄目です。」
「そうなんですか?」
「一般で言う処の優秀な人材というのは、大抵の場合、優秀っぽい演出をしているから、優秀に見えるだけなんですよ。」
「演出ですか?」
「そうです。そういった演出で優秀に見える人間というのは、他の人が一生懸命作り上げた舞台を利用して自分の成果にすり替えている場合がほとんどです。縁の下の力持ちというか、彼等にとっての奴隷とセットで優秀なんですよ。」
「奴隷って・・。」
「自分にとって都合の良い奴隷がいなくなれば、大抵の場合、何も出来ない人間に成り下がります。」
「でも、優秀に見える人達って、そんな人ばかりじゃないと思うんですけど・・・。」
「そうですね。本当に優秀な方も、それなりに、いらっしゃいますから、判断が難しいですね。」
「かなり、うがった見方だと思うんですけどね。」
「そうかもしれませんね。ま、話がそれましたが、今、恐竜を追いかけているチームは一人一人の能力は高いんでしょうが、いかんせん全員リスクをとりたがらない。実際の処、誰か、犠牲の羊にならないといけない状況にあるんですけど、誰もスケープゴートになろうとしない。だから、責任を押しつけ合いがはじまる。隙を見せると、責任を押しつけられるので、隙を見せない様に仕事をしているフリをしはじめる。仕事をしているわけではないので、問題は一行に解決しない。今、そんな状況に陥ってます。」
「仕事をしているフリですか?でも、少しは仕事をしているわけですよね。と、言う事は、解決に向かい前進していると思うのですが・・・。」
「仕事というのは、リスクを取り除かないと、前に進まないんですよ。リスクを取り除く努力しないとどんなに頑張ろうが、前に進む事すら出来ないんですよ。全員、その事に気づいているのに、それに手を付けず、仕事をしているフリをしているんです。私から言わせて貰えば、仕事をしない事よりたちが悪い状態です。」
「ああ、何か昨日の生徒会でも、そんな感じでした。」
「まあ、基本、どこの組織でもそういう方は必ずいます。むしろ、かなり多いです。」
「処で、黒猫さんが、退魔師さん達の隊長さんだったら、どうしますか?」
「私ですか?まず、やる気が無いヤツは全員、退却させますね。居ても邪魔ですから。正直、私一人で動いた方が、断然、仕事が早いですから。」
「それは言い過ぎでは?」
「いえいえ。昔は私も『みんなでやれば早い』という、そういった妄想を抱いていましたが、社会に揉まれた結果、ああいうたぐいの『仕事をしているフリをしている方々』と作業をやっても、事実上、一人でやっている状態になるので、それだったら、一人でやった方がマシなんですよ。それに、ああいうたぐいの人は奴隷の監督が仕事と思い込む傾向があり、彼等の考えに少しでもズレがある行動を取ると、狂った様にいちゃもんつけてくるので、正直、そういった方々を廃して、一人でやった方が効率的です。」
「むー。」
「一応、社会に出て、組織に属した時、そういうタイプの人間を見分けるコツを一つ教えておきます。」
「それは、何か役にたつんですか?」
「立ちますよ。むしろ、知っておかないと、かなり苦労します。」
「そうなんですか・・。」
「そういったたぐいの人間は、かなりの悪意をもってこちら側に接してくるので、そういった人間に目をつけられた場合、相手と共倒れになる覚悟で接しないと、骨までしゃぶりつくされますよ。強い悪意をもって接してくる相手には心が折れるぐらいに、徹底的に叩かないと駄目です。」
「そこまでしなくても良いのでは?」
「先月、いじめを受けた時、あれだけの殺気をみせた人とは思えない言い分ですね。」
「私、そんなに殺気を放ってましたか?」
「そりゃもう。で、そういった方を見分けるコツですが、少しの時間止まっているだけなのに、すぐ怒鳴る人間です。」
「その人は親切で怒っているのかもしれませんよ?」
「そうかもしれませんが、少しの時間止まっているだけで、すぐに怒鳴るのは、常に監視しているからです。普通に仕事をやっていれば、ちょっと止まったぐらいで、気づくはずがありません。それに、普通の感覚であれば、ちょっと動かないだけでは怒鳴るどころか、注意すらしないでしょ?それなのに、問答無用で怒るのは、仕事そのものに集中せず、他人に押しつける事しか考えてない証拠です。」
「怒鳴る人に何か怨みでもあるんですか?」
「まあ、そうかもしれませんね。私は何故か、そういう方と仕事をする事が多く、痛い目を見てきたので。そんな事より、風が出てきましたね。」
「そう言えば、そうですね。」
「多分、あと少しすれば、雨が降ってくるでしょう。」
「動物の勘ってやつですか?」
「まあ、それもありますが。この時期の雨は風が吹いて、それが止まった後、雨が降り始めるパターンが多いんで。」
「そうなんですか。」