責任転嫁の空気
月見の部隊は黒犬のメリーを先頭に恐竜を追い続けていた。
メリーは道路についた臭いを辿りながら、ついに草むらに隠れていた恐竜を発見する。
恐竜は草むらの中でう翼で頭を抑えながらうずくまり、おびえている様だった。
草で体のほとんどは隠れているのだが、尾羽というか尻尾だけがちょこんと歩道に出ていた。
メリーは距離を置いて、歩道に座り込む。
「いたわ。こっちにまだ気づいて無いみたいね。みんな、取り押さえるわよ。」
月見は小声で指示を出すと、皆、包囲網を築きながら、そっと近づいていく。
その時、恐竜は突然、顔をあげ、周囲を見渡す。
周りには、怖いお兄さん達が自分を取り囲もうとしている。
「うわ、見つかった。」
『また、しゃべった。』
恐竜はあわてて立ち上がる。
「気づかれたわ、みんな追って。」
月見の声が響いた
メリーは月見の声より先に起き上がり、走り出していた。
「メリー。ストップ。あなたは無理しなくていいわ。ケガしたらバカみたいよ。」
黒犬は神園の声を聞き止まる。恐竜は草むらの中をかけていった。
「バカか。何で犬を止める。それにお前も見てないでとっとと追えよ。」
神園は自分の後方にいた男に大声で怒鳴り散らされた。
流石に彼女も驚き反射的に体が動く。
部隊の人間達は草むら入ろうと行動しているように見えたが、誰が一番最初に入るかで、駆け引きを繰り広げている様にも見えた。
そんな中、私服姿の月見が一番先に草むらに突入する。
月見が入った後、部隊の人間達はぞろぞろと草むらの中に入って行く。
先頭の月見は私服姿である。草むらの中を駆けられる様な状態ではない。当然、恐竜を見失う事になる。
草むらを抜け、あぜ道に出た。
そこで一人の男が、神園に詰め寄ってくる。
「お前、何故、犬を制止した。あのままやらせておけば、捕まえられたのに。」
男は大声で神園をどなりつけた。
それから、一時間が過ぎた。あの後、恐竜は見つけられないでいた。
部隊全員が神園の責任と思いはじめ、いらつきはじめていた。
その空気がびんびんと神園にも伝わってくる。
彼女は反論をしていなかったが、言い分は幾つもあった。
まず、神園にしろメリーにしろ、戦闘準備を全くしていない点だ。
神園にいたってはハンバーガーショップの制服のままである。
正直、恐竜相手に格闘戦を行える状態にないのだ。
それに引き替え、月見を除く、部隊全員は完全武装である。
戦闘を行うのであれば、武装的に彼等が行うべきなのだ。
次に、草むらの中を移動すれば、ケガをする可能性がある。
メリーは毛に覆われているとはいえ生身だし、一番最初に草むらに突撃した月見は10代の女の子の私服である。神園は膝下から下は素足の制服である。
それに引き替え、彼等は草むらを走り回ってもケガひとつ追わない重武装である。
女や獣を先に突っ込ますより、自分たちが率先して草むらにつっこむべき状況のはずだ
それを彼等はせず、草むらの入り口で見合っていた。
その結果、月見が突入し、彼女は恐竜と格闘戦を行う前に傷だらけである。
それに、この仕事は彼等の尻ぬぐいである。
神園はそれを手伝っているだけであり、何の責任も無いのだ。
正直、このまま仕事を放棄しても何の問題も無いのだ。
彼女の視点から見れば、この集団全体に蔓延する神園に責任を転嫁しようとする空気はお門違いなのだ。
この尻ぬぐいの件では、現在の処、責任が無い順に仕事をしている状況が続いている。
一番働いているのは、メリーだし、次が神園、その次が月見であった。
メリーは所詮は獣なので責任を問う事自体が難しいし、神園は『恐竜を犬を使って探す』仕事を請け負っただけである。月見は、この現場での最高責任者ではあるが、この状況下を作り出したのは部隊長代理の独断専行が原因である。彼女に管理責任はあるものの、部隊長代理が現場判断で意図的に情報を上げて無かった時点で、月見の責任はほとんど無い。
ただし、残りの方はここまで状況を悪化させた当事者である。
神園は、ここまで状況を悪化責任を誰も感じていない事実に呆れていた