メリー
「ふぁあー。」
神園はあくびした。
「眠い・・・。」
彼女は何故こんなに眠いのか考えてみた。
よくよく考えてみれば、昨日は寝ていないのだ。
昨日の夜は月見の姉トークに付き合わされ、一時間かけて移動し、その後、ずっと店で働き、今さっきまで恐竜を追いかけて走っていた。
この歳で、幾たびか徹夜を経験すると、一日寝なくても何とかなるのだが、流石に恐竜を追いかけたのがこたえた様で、突然の眠気に襲われたのだった。
「ちょっと、あんた、こんな時にあくびをしないで。」
もの凄く荒い息づかいをさせながら、月見がそういった。
「無理言わないでよ。私、あんたのせいで昨日寝てないんだからさ。」
「根性無いわね。私を見なさい。こんなに元気ピンピンよ。」
「何で、そんなに元気なんだよ・・・。」
「そりゃ、あなたが店に向かった後、ぐっすりと眠ったからに決まってるじゃ無い。」
「・・・・。何て不条理な・・・。学校の事とか考えなかったかよ。」
「起きたら、何故か11時過ぎてたんで、学校行くのも面倒くさかったし、どうせ、夜にはねぇえ様の学校で仕事があったら、あっちの学校からだと移動に2時間かかるし、丁度、あの店の制服を着て働きたかったら、あの店に出資者の娘の地位を利用して、バイトをしてたのよ。もちろん、移動中は車の中でぐっすりと眠ったわ。」
「・・・・・。」
神園は月見の言い分と眠気で反論する気力すらわかなかった。
「あの恐竜も見失ったんだし、ここいらで寝かせてよ。」
「ちょっと、あんた、こんな道路の真ん中で寝るつもり?」
「・・・・・。」
月見の声も頭に入らなくなってきた。
神園はその場で座りこみウトウトしはじめる。
「ねぇえ。」
そんなとき、月見の部下達も到着する。
「月見様。恐竜はどうしました?」
「逃げられたわ。今さっき、見失ったばかりだから、まだ、そんな遠くに行ってないと思うんだけど、それより、状況を説明しなさい。」
「はい。」
隊長代理は「鬼」だった人間が目覚めた事、尋問で「魔法石」を紛失した事、その魔法石を昼に捜索していた事、魔法石が学校裏の崖にあった事、先ほど学校の裏で見た光は、鳥がその魔法石に触れた事を説明した。
「何で、そんな大事な事を。」
「申し訳ありません。」
「あなたの処分については、後で決めるとして、今は恐竜をみつけないと。」
「はい。・・・・。ん?」
隊長代理の横を黒い大きな犬が通りすぎた。
その犬は、歩道で寝ている神園の元に行き、彼女の顔を舐める。
神園は目覚め、犬の顔を見る。
「あら、メリー。あなた追いかけてきたの。ありがとうね。」
そう言って、メリーを抱き寄せて、眠りにつこうとする。
「そうだわ。この犬、退魔犬でしょ?この犬を使って恐竜の足取りを追いましょ?」
女と犬は気持ち良さそうにすやすやと寝ていた。
月見は神園の全身をゆする。
「ちょっと、起きなさい。」
「な、なんだよ。」
「この犬、退魔犬でしょ?恐竜を見失った今こそ活躍する時よ。」
「えー。」
神園はもの凄く嫌な顔をした。
「退魔犬はこういう時に活躍する犬でしょ。今、活躍させないで、いつ活躍させるのよ。」
「あーうーえーと・・・。」
月見は返事に困った、確かに今は退魔犬が最も活躍できる場面である。だが、自分はメリーを抱きながら寝たいのだ。恐竜の捜索を始めれば、何時間もおきていなくてはならない。それがとてもイヤだった。
「あの、月見様。こんな部外者に頼らなくても。」
「何を言っているの?あの恐竜を確保しないと、あなたの処分が重くなるのよ。今は使える札を惜しんでいる余裕は無いのよ?」
「はい・・・。」
隊長代理が、申し訳なさそうな顔で神園を見た。
『うー。見られてる。私がここで動かないと、この人の立場が危うくなるのか。そんな選択を今、私につきつけているのか?』
「しかたない。」
神園はメリーの顔を両手で押さえる。
「メリー?いい?さっきの恐竜のにおいは追えるわね?じゃあ、探して。」
メリーは「バウ」と一度吠え。神園から離れた後道路の臭いをかぎはじめる。そして、走りはじめた。
「みんな行くわよ。」
そう月見が言って、部隊に人間は犬を追いかけはじめる。
神園も立ち上がり、よれよれになりながら、走り始めた。