バス停にて
「ねぇえ。この街って田舎よね。バスは一時間に一本だし、最終のバスは8時30分だし。」
バス停の椅子に座りながら、桐野はそう言った。
「そうですね。もう少し本数があると便利なんですけど。」
「まあ、ウチの学校の登下校時間以外はガラガラだから、贅沢は言えないんだどさ。むしろ廃線にならないのが不思議ね。」
「この県道は幹線道ですからね。県の中心都市や空港に行くには必要な路線ですし。そうそうは廃線にならないとは思いますけど、TVで市との補助金や労働組合と揉めているを見ると、便数は減らされそうですよね。」
「便数がこれ以上減るのはイヤだなぁあ。今ですら、こんなに待っているのに。」
「だから、歩いて帰った方が早いって言ったじゃないですか。」
「桜間さんは普段から歩いて通学しているから、当たり前でしょうけど、バスに頼りっきりの私としては心が自然に折れるくらいの距離なのよ。」
「昨日は歩いて帰ったじゃないですか。」
「だって、昨日は既にバスは無かったんだもん。そっだ。この機会にバイクの免許取ろうかしら?」
「うちは、原付の免許はOKでも、バイクは禁止ですよ。それに私達の家の距離では通学許可は下りないと思いますよ。」
「むー。そうだったわね。バイクの免許とって謹慎食らってた人もいたし・・。車の免許は認められているのに。バイク単独は駄目で、車とセットだと問題無いとか、正直、どうかとも思うけど。それに、よくよく考えると、バイクの免許をとるには一月ぐらい自動車学校に通う必要があるのよね。それだったら、自動車とセットでとった方が効率的だし、一ヶ月も放課後3時間ぐらいを拘束されるとなると、間違いなく受験に支障がでるわよね。そう考えると、原付か。原付だと試験場に行く必要があるのよね。でも、遠いのよねぇえ、試験場。それを思うと心が折れるというか。」
「バイクでも車でも、最後の筆記試験は試験場だと思いますが・・・。」
「まあ、それはそうなんだけどね。車とかバイクなら、そのモチベーションもわき上がると思うんだけど、原付となると、そこまでじゃないというか。」
「桐野さんは勉強は積極的なのに、そういうのは駄目なんですね。」
「まあねぇえ。そだ、自転車通学にすればいいのかしら?でも、3年になって今更、自転車通学の許可を職員室に貰いに行く事を考えると、それもどうかと思えてくるわねぇえ。そういえば桜間さんは何で歩きなの?自転車じゃなくてさ。」
美由はテラミルになってから、魔法少女のリスクを減らす事と、パワーアップをはかるために体力作りの一環としてやっていた。
「えっと、ほら、人間一日一万歩歩かないと駄目というじゃないですか。」
「健康のため?ご苦労な事ね。でも、桜間さんの魅惑的な体つきはそうして保たれているのかもね。」
「そんな・・・。??」
どこから、ともなく、足音が聞こえてくる。
「そこにおられるのは、姉さん方じゃないですか。」
足音が聞こえてくる方向から、大声でそんな声が聞こえていた。
『姉さん?私達を姉さんって呼ぶのは昨日のハヤブサ?』
声の方向に二人は顔を向けると、暗闇の中から人ぐらいの大きさの恐竜が現れる。
二人はあまりに現実離れした光景に、状況が飲み込めずに、ぽかーんとしていた。
恐竜が二人の前まで、やってくる。
「姉さん方、助けてくださいまし。」
彼女達の目の前には全身を羽で覆われた恐竜の姿がそこにあった。
全身の色合いは昨日のハヤブサなのだが、姿や大きさが明らかに違う。
「姉さん方、あっしがわからないので?昨日の夜、姉さん方に助け貰ったハヤブサでござんすよ。」
「あの、姿や大きさが昨日と全然違うんですけど・・・。」
「あっしも良くわからないでやんす。餌だと思って白く光る小さな石をくわえた瞬間こうなったんで・・・。あ、あっし、怖い方に追われてるんで、これで失礼します。」
そう言って、恐竜は走り去って行く。
それと入れ違いに棒を持った月見とハンバーガー屋の制服を着たままの神園が通り過ぎた。
二人とも存在を薄めていたが、二人には丸見えだった。
「ねぇえ。あれって月見さんと、さっきの店の店員さんぽくなかった?姿がぼやけてハッキリとはみえなかったけど、あのシルエットからみるに。」
「き、気のせいでは・・・。」
桐野は美由をジーとみる。
「また、嘘をついているわね。」