デイノニクス
月見はバイトで暇を潰していたものの、須王寺家の部隊は、遊んでいたわけでは無かった。
彼らは「魔法石」と呼ばれる石を探していた。
月見には知らされてないが、じつは鬼であった人間は意識を取り戻していた。
目覚めたその人物を尋問した結果、「魔法石」という石の力を使って、強制的に鬼になった事が分かった。鬼になった時、彼は、その「魔法石」を全て使い切っておらず、三分の一ほど、余っていたという。鬼になってからも、首にその魔法石をぶら下げていて、ずっと持っていたはずなのだが、人間として目覚めた時はすでに無かったという。
この紛失した魔法石を放置して問題が無いのであれば、彼らも必死に探さないのだが、下手に放置すると非常に困る機能があるので、放置する訳にもいかず、必死の探索を続けているのだった。
そのため、彼らは鬼の逃走ルートをしらみつぶしに、あたっていたのだ。
月見が「魔法石」の探索に関わっていないのは、部隊長代理が意図的に情報を端折って、彼女に勘違いさせたからだった。だから、今回の調査が「魔法石」の探索である事を月見は知らない。彼女は美由達の学校で夜に大規模な調査があるとしか思っていなかった。
ちなみに、彼が、何故、「副隊長」という呼び方ではなく、部隊長代理なのかというと、「月見」自体は今の処、御輿に過ぎないからだった。実質的な部隊長は彼で、本来なら隊長と呼ばれるべきなのだが、大型組織ならではの都合で、彼は部隊長代理となっていた。
月見との待ち合わせの時間が近づき、学校付近まで探索を終えていたが、魔法石は発見出来なかった。
隊長代理は学校の裏庭が見渡せる崖の上のガードレールに手を置き、待ち合わせ場所の学校の裏庭を見ながら、色々思案していた。
そんな姿を、隊員達が見ている。
「隊長代理うなだれいるな。」
「なんせ、月見様にちゃんと『魔法石』の事を伝えてないからな。」
「昨日の昼には鬼が目覚めているのに、それも伝えてないらしいし。」
「責任問題か?」
「多分、そうなるんじゃないか?」
「嫌だなぁあ。連帯責任で俺たちにも、とばっちりがくるんだろ?」
「てか、直線距離で40Kmはある、この広範囲を一日で探せると判断したんだか・・・。」
「いつもの口車で解決するんじゃないか?」
「月見様はそれで納得するのか?」
「今の処、魔法石に関して発動した報告は入ってないから、月見様さえ抑えれば何とかなるんじゃないか?」
隊員達は好き勝手な事を言っていた。
『こいつら、俺の苦労も知らないで・・・。』
隊長代理は怒りでガードレールを握りしめた。
そんなときだった。崖に何かが光るモノがあるのが見えた。
日が落ち、暗がりになったから気付ける輝きであった。
隊長代理はその輝きに、よーく目をこらすが、対象が小さいし、距離が離れすぎていて、良くわからなかった。
そんな時だった。
彼の視界に黒い塊が、その光るものに向かい飛んできた。
その光るモノに黒い塊が触れた瞬間、青白い光を放つ。
そして、その黒い塊は崖を飛び跳ねる様に登り、隊長代理にどんどん近づいてきて、彼のいる道路へとジャンプする。
「うわぁああ。」
おもわず、隊長代理は大声を張り上げ、腰を抜かした。
彼の前に立っているのは、人間の背丈ぐらいの恐竜であった。
「ヴェロキラプトル・・・。」
隊長代理の後ろで待機していた隊員達の一人がそうつぶやいた。
「違う。某映画で意図的に名前を変更されているがデイノニクスだ。」
隊員の中に明らかな恐竜マニアがいた。
「それに見ろ。あの腕についたあの羽。あれを作ったやつはかなりの恐竜マニアだぞ・」
腰を抜かしている隊長に、その恐竜は近づき、羽で覆われた手を頭に置いてしゃべりはじめる。
「すいません、旦那方、あっしが見えるんで?あっしはさすらいの狩人ハヤブサでござんすが、何か巨大化してしまって・・・。」