ハンバーガーショップにて
「ふー。」
美由と桐野は同時に溜息をついた。
放課後の教室で、二人は机を並べて宿題をやっていた。
今日も昨日に引き続き、大量の宿題が出たのである。
今日は須王寺と学校の近くに出来たファーストフード店に行く約束をしたのだが、言い出しっぺの本人が生徒会と派閥のゴタゴタでかけずり回らざるを得なくなり、30分程教室で待たされる事になったのだ。
昨日、大量の宿題のために地獄をみた二人は、この空き時間を利用し、放課後の教室で宿題をこなすという行為に及んでいた。
「ねぇえ。桜間さん。」
「はい、桐野さん。」
「何で、放課後にイベントがある日に限って、こんなに宿題がでるのかしらね?」
「さあ。私の経験上ですが、待ち望んでいたイベントがある日に、まとめて不幸ってやってきますよね。」
「今日の数学の宿題って、あんまりじゃない?一番量が多かったのに、答えのプリント渡して、後は自分で見直す様にですって。こっちは眠たいのを我慢して無理にやってきたのに。」
「受験に必要な基本レベルの問題でしたからねぇえ。受験を前提にするなら触れておかないとやばいところですし。でも、結構重要な処なので、幾ら授業時間がやばそうだとはいえ、あのやり方は無いですよね。」
「てかさぁあ。正直、この学校、授業時間が単純に足りないと思うのよ。」
「ええ。全くです。今のペースだと、ほとんどの科目が受験前に最後まで辿りつけないですし。」
「私、思うんだけど土曜日を休日前提っていうのを止めればいいのよ。うちより上のランクの私立は土曜は半日学校半日休みじゃなく、一日授業とかやっているところもあるんだし。」
「三年でここまでツケが回ってくるとなると、正直そう思いますね。」
『まあ、聖エルナール学院の事があるから、それは出来ないのも分かっているんだけど・・・。』
二人は同時に同じ事を思った。
「ふう。」
また同時に溜息をつく。
「ねぇえ。桜間さん?今、私、数学の確立の問題やってるんだけどさ。」
「はい。わたしもやってます。」
「前ね新聞に小学校高学年のテスト問題ってが載ってたのよ。」
「はい。有名私立中とかの受験問題とか、小学生勉強コーナーとかにたまに載ってますよね。」
「そうそう。その小学生のテストが確立の問題でね、私、解けなったのよ。」
「はあい?小学生に何で確立?そりゃ平均や双六の確立ぐらいはやりますけど、そのレベルですか?」
美由は手を止める。桐野は手を止めない。
「いいえ。でも、最近の小学生は習うんじゃ無い?新聞に出てた問題だし。でも、その問題、答えを見る限り、どう考えても高校数学の確立の基礎的知識が無いと解けないのよ。」
「問題を見てませんから、何とも言えませんが・・・。」
「前もね、その新聞に載ってた小学生の算数の問題でね、図形の問題だったんだけど、平行四辺形をベースに補助線と錯角を利用しないと答えが出ない問題が出てたの。」
「本当にそれって小学生の問題なんですか?中学生の間違いでは?」
「そうかもね。」
教室の扉が開く音が聞こえた。
二人は手を止め、扉の方へ顔を向けた。
「ごめんなさい。」
そう言って入って来たのは須王寺 麗菜だった。
「私が誘っておいて、待たせてごめんなさいね。」
「良いの。良いの。宿題をやってたから。」
「でも、どうします?ファーストフード店に遊びに行くには困る量の宿題がありますけど・・。やめます?」
「あら、桜間さん。丁度良いと思うわよ。ファーストフード店で三人で一緒に宿題をしようじゃない。」
須王寺が満面の笑みになる。
「ああ、それって、良いですね。私、実は憧れていたんですよ。ファーストフード店で友達と一緒に宿題をしあうのって。」
「いらっしゃいませ。こんにちは。お客様?何をご注文ですか?」
そう華やかな満面の笑みを作り言ったのは、赤服の退魔師である神園だった。
今の彼女は赤服ではなく、大手ハンバーガーショップの制服に身を包んでいるのだが。
『あの女・・。バイトと言うから退魔師の仕事かと思っていたら、自分の家がフランチャイズ契約した店の人手が足りないからって、二日前に会ったばかりのホームレスに普通たのむか?』
「バーガーとポテトを単品で頼むより+20円でMサイズのお飲みものが付くセットがあるので、そちらのの方がお得ですが。」
神園の隣のカウンターから、華やかな店員の声が聞こえてくる。
声の主は須王寺月見であった。彼女も開店時のヘルプとして参加しているのだ。
『てか、この女。学校は良いのか?昼からずっといるけど。」
神園は客をさばきながら、そう思った。
「ふー。」
一回溜息をつき、華やかな笑顔を作って、客の方を見る
「いらっしゃいませ。こんにちは・・・・。あっ。」
彼女の目の前にいる客は美由だった。
そして、月見の前にいる客は須王寺 麗菜だった。
月見は麗菜に引きつった笑顔で「お客様?何になさいますか?」と言った。