コインランドリー
朋は市営住宅近くにあるコインランドリーの中にいた。
椅子にちょこんと座り、乾燥機の中で踊る様に回転する自分の制服をジーと見ている。
そんな時、何か暖かくフサフサで柔らかいものが自分の太ももを触ったと思ったら、それはぞもぞと移動しながら朋の太ももの上に乗ろうとしていた。
自分の太ももの上に乗ってきたモノを見た。それは、傷だらけの黒猫だった。
黒猫は朋の顔を見て「にゃあ」と口を開く。
『化け物の猫さんなのです。でも、この猫さんどこかで見た事があるような?』
「お久しぶりです。魔法少女様。」
「わあ。」
朋は驚く。
「そこの公園で会った以来でしょうか?」
「あうー。私が蛙さんと一緒に猫さんに襲われた時ですよね?でも、あの時会ったかは良く思い出せないのです。でも、私が魔法少女になったすぐ後に黒猫には会ったので覚えているのです。」
「それは良かった。何せどっちのシーンも作者が覚えて無かったぐらいですから。」
「それより、どうしたんですか?私を訪ねてくるなんて。」
「いや。もう一人の魔法少女様の方が、ちょっとした、やっかいごとに巻き込まれているので・・・。」
「ええ?そうなんですか?美由先輩の身に何があったのですか?」
「多分、あなたも関わっていると思うのですが。」
「私も?」
「ええ。多分ですが、今朝、お二人は鬼と戦いましたよね?」
「戦ったのです。美由先輩が助けてくれたのです。」
「その時の話を教えて欲しいのです。」
「ええと。話すのは別に良いんですけど、私、途中で気を失っちゃったんで、詳しく知りたいなら美由先輩に聞いた方がいいかもです。」
「それが出来ればそうするのですが、あの方、退魔師と関わってたので今はちょっと近づけないんです。」
「あの赤服の方ですか?」
「そうと、言っておきましょう。」
黒猫はあえて含みのある言い方をした。実際は赤服の女だけではなく、須王寺家の方の関係も疑っているからだった。
朋はその事は全く気にせずしゃべりだす。
「私が今朝、学校の裏庭を歩いていたら、突然、ブルドッグが空から振って来て、私に抱きついたのです?」
「ブルドッグが空から?」
「ええ。そうなんです。そのせいで私の制服は泥まみれに・・・。」
「いや、そうではなく。もっと分かるように説明してください。」
「うーんと、多分、ブルドッグさんが鬼さんに追われてて、崖から落ちたんじゃないかと思うんです。その後、鬼さんが私の目の前にドーンって音と共に落ちてきて、突然、私に攻撃をしてきたのです。私は魔法少女になって戦うのですが、その途中、気を失って、気がついたら赤服の女の人に抱かれていたのです。」
「あのブルドッグ・・・。またトラブルを。」
「あのブルドッグさん有名なんですか?」
「ええ。わがままで、方向音痴、あちらこちらでトラブルを起こすことで有名ですね。」
「私も、酷い目にあったのです。」
「それで、話しの続きを。」
「ええと、気がついたら、美由先輩が鬼の治療をしてて、誰か来る気配を感じたので、そのまま存在を薄めて、学校の中に逃げたのです。」
「だいたいわかりました。ありがとうございます。」
「いえいえ、どういたしまして。」
猫はそう言うと朋の太ももから飛び降り、床に着地すると、また朋を見る。
「魔法少女様。情報のお礼として、ひとつ、忠告おきます。」
「なんですか?」
朋は首をかしげた。
「もう一人の魔法少女様とは、しばらく距離を置いた方がいいですよ?」
「ええ。せっかく、今日久しぶりにお近づきになれたのにですか?」
「はい。あの方、赤服の退魔師と長く居すぎたので、その筋の方々に目をつけられる可能性があるんですよ。あなたは嘘をつく能力が無いので、下手に彼女の周りにいると、あの方もあなたも魔法少女だと知られる可能性が高くなるんですよ。」
「あうー。それは困るのです。私、嘘をすぐつくけど、すぐにばれちゃうのです。」
「理解していただけて、さいわいです・・・・。ん?」
黒猫は、コインランドリーの出入り口の方に顔を向けた。
そこには、ここら辺を取り仕切っている、猫4人組がいた。
「これはこれはクロさん。ここは、あなたの縄張りじゃないでしょ。」
「これは失礼しました。もう、用事がすんだので、すぐ、ここから出て行きます。」
「いや、それでは困るんですよ。」
「と、言うと。」
「最近、ここいらを荒らしている退魔師やら鬼やらの情報を教えて貰わないと。」
「断ると言ったら?」
「力尽くで」
「め!」
そう言って、黒猫と出入り口付近の4匹の猫の頭を朋は次々と叩いていく。
朋は4匹組の猫に向かい、一本指を立てる。
「ケンカは駄目ですよ。」
「はーい。」
朋は黒猫の方を見る。
「黒猫さんもわかりましたか?」
「ええ。仕方ありませんね。えっと、情報については教えますので。」
「わかった。」
「ここでは何なので、よそで話しましょう。」
「そうしよう。」
5匹の猫はコインランドリーの外へ出ていった。
「さよならです。ケンカしちゃ駄目ですよー。」