休憩
「土地神ですか・・・。何と凶暴そうなウサギ。あんなのが街出て暴れでもしたら。」
部隊の入ったばかりの新人がそういう。
「こら、土地神は実りをもたらす神だ。それに、ここいらは数十年、化け物の被害があった報告は無いし、何か化け物に動きがあるという報告もない。それは、化け物が上手く、人間と付き合っていけている証拠だ。人間に悪さをしないで、ひっそりと暮らしているのに、見た目が凶暴だからという理由で狩るのは、愚か者がする事だ。」
副隊長の男が若い男を諭す。
「そうですよ。化け物の完全浄化は昔から何度と無く行われて来ましたが。彼等がいなくなった土地に悪霊や悪魔、鬼が棲み付く様になって、より酷い事になる事が分かっているので、霊的に安定している土地に手を出すのは愚かな行為ですよ。」
月美はそう言った。
須王寺 月美の部隊は、一日以上鬼を追い、疲労がピークに来ていた。
「流石に、これ以上追うのは無理そうね。」
「応援がもう直ぐ来るそうなので、そちらに引き継いで、我々は一旦休みましょう。」
「悔しいわね。」
須王寺の部隊は、応援部隊に鬼の大体の位置を携帯を使い連絡をした後、山を降りた。
美由と赤服の女はゆっくりと山を降りていた。
赤服の女はひねった足をかばう様に不器用に動かしながら歩いていた。
「ごめんね。まさか、こんな事になるなんて。」
「いいえ。私だけだったら、あの鬼に襲われて助かっていたか。」
「それも、そうね。感謝しなさい。」
「はい、そうします。」
「それにしても、須王寺家の部隊は凄いわねぇえ。武装が。」
「あの巫女服と木の槍ですか?」
「ああ、あれも、結構な霊的装備だけど、他の男達の装備がなかなか。」
「森に入って行くのを一瞬、見ただけなので、どんな格好をしてかなんて。」
「もう、つまんないわねぇえ。もう少し、周りにも目をくばりなさい。一転集中もいいけど、それでは周りの大事な事に気づかないわよ。」
「良くいわれます。私は物事に集中すると、周りが見えなくなると。気をつけてはいるんですが。」
「それより、あの部隊で1日かけて取り押さえられないわけでしょ。あの鬼、私達を見ていきなり襲ってきたわけだし。あんなのが、街に出たらトンでも無い事になるわよね。その前に何とかしてくれるのかしら?」
美由は、その言葉を聞いて、さっき、テラミルになって鬼を倒しておくべきではなかったのか?と思ったが、相手は人間である。殺すわけにはいかない。と、なると、取り押さえる必要がある。だが、魔法少女に取り押さえる手段が無い。
自分が戦っても、無駄だという答えしか出てこない。
『蛙主やウサギ主がいたらなぁあ。でも、鬼を捕まえても、その後、どう処理していいかもわからなし・・・。捕まえたら捕まえたでどうしようもないわけで』
「ま、私ではない、他の退魔師が何とかするでしょ。」
山を下り舗装された道路まで出ると、キャンピングカーが止まっている。
須王寺の部隊はキャンピングカーに早々に乗り込んだ。
キャンピンカーの中は、真ん中に通路があり、左右に2段づつ上下に区切られた人が一人やっと寝れるベットルームがあるだけだった。
「ところで、月美様はこのまま帰られたほうがいいのでは?」
副隊長・実質的な部隊長が月美にそう提案する。
「あら、何故かしら?私、あしでまといかしら?」
「そういう事ではなく。月見様は良く働いておりますが、明日、学校なので。」
「聖エルナール学院はそういう事には融通が効いてよ。」
聖エルナール学院は自由な校風が売りである。基本的に上流階級で生きる処世術と、高校卒業に必要な最低限の単位さえとれれば、それで良いという学校だった。それは、登校日数も最低で構わない事を意味する。しかも、それなりに理由があれば、公欠扱いしてくれるのだ。それは家の事情や、仕事でも構わない。流石に遊びやサボりは無理だが。この公欠の甘さを利用して、ファッション雑誌のモデルや、東京まで行ってまだマイナーではあるがアイドルをやっている子までいた。
「ですが・・・。」
「おねぇえ様が通っている進学校なら、毎日通わないと成績が大変な事になりますけど、うちの学校はそういうのは二の次なので。と、言うより。私が聖エルナール学院にいるのは、須王寺家の本業である退魔業に専念できるからです。お姉さまみたいに、表でやっている事業を引き継ぐのであれば、勉学も必要でしょうが私には必要なものではないので。」
「わかりました。」
「それより、寝ましょう。8時間後には別働隊との引継ぎもありますし。」
「了解しました。」