鬼を追う者たち
須王寺妹は、腐葉土がたまり、起伏の激しい杉林を平然と走っていた。
服は少し短めの巫女服である。
彼女は須王寺家の人間ではあるが、神主になるための階位をもっていないので、巫女服のままだ。階位を取るには、神社庁が指定する養成所で数年間勉強するか、神社庁が指定する大学に通うか、数年間神社での就職したのち養成所で何日間かの講習と試験を受けなければ階位はとれない。
彼女はボリュームのある長い髪を、和紙で包み一本に束ねていた。
右手には槍が握られている。槍と言っても、金属は一切ついていない。ただの木の棒を尖らせただけのものだ。もち手の部分には怪しげな文字がびっしりと書かれた布が巻きつけられている。
彼女が山道を走っていると、先ほど、鬼を追って山の中に入った男の一人が彼女の元へ近づいてきて、一緒に併走する。
「月美様。鬼は山の上の方へと逃げているようです。」
「わかりました。それにしても、これだけ追っているのに、まだ、捕まらないなんて。私の退魔師デビューに傷がつきましたわね。」
蛙主とウサギ主は山の上の方で仲良く酒を飲んでいた。
「しかし、人間も迷惑よのう。」
そう、ウサギ主は言う。
「まったくじゃ。女子高生を拝みにいけんではないか。」
蛙主は愚痴をこぼす。
「人間の女には興味は無いが、こう堂々と山の中を走れんと、ストレスがたまる。」
「まあ、こんな山奥には鬼は現れんじゃろうから、酒でも飲んでおとなしくしておれ。」
そういいながら、ひょうたんを口につけ、酒をぐびぐびと飲んだ。
「ん?」
二人は何かに気づき、同じ方向を見た。
「なんじゃろうな?」
「酒で鼻がつまって、臭いがわからんが、何か気配がする。」
じっと見ていると、突然、鬼が現れ、物凄い形相でウサギ主に飛びかかってくる。
「鬼じゃ。何でこんなところに。」
ウサギ主は、相手の手をつかみ、力比べをはじめる。
「知るか。」
鬼も大きいが、ウサギ主はもっと大きい。鬼が力があるとはいえ、ウサギ主の方がもっと力があった。徐々に鬼を押していく。
鬼は力負けしている事に気づき、ウサギ主と繋いでいる手を強引に引き離し、のど元へ手をかけようとする。ウサギ主は鬼の脇に手をすべりこませ、腕を掴みそれを阻止しようとする。
ウサギ主は相手の足を払って倒し、寝技でおさこもうするが強い力で抵抗されて、中々抑え込めない。鬼はウサギ主の手を噛み、一瞬ひるんだ隙に、ウサギ主の寝技を抜け立ち上がった。
ウサギ主も立ち上がる。
鬼は腕を振り上げ、ウサギ主に殴りかかってくる。
彼はその拳をあえて受け、同時に下から突き上げる様にして相手の腹に拳を叩き込む。
ウサギ主はなんとも無かったが、鬼は3mほど、とばされた。
「倒すのは難しくなさそうだが・・・。」
ウサギ主がそう口走った瞬間、鬼は逃げ始めた。
その時だった。
「ここに、大きな化け物と鬼が戦っているぞ。」
大声で誰かが叫んだ。
鬼を追ってきた退魔師の男達である。
ウサギ主と蛙主は男達に囲まれていた。
男達は武器を構え今にも襲い掛かってきそうだった。
「待ちなさい。」
男達の動きが一瞬止まる。
ウサギ主は四つんばいになり、蛙主が背中に飛び乗った後、ウサギ主は高くジャンプをして逃げていた。
「月美様、あれはいったい。」
「多分、ここら辺の土地神でしょう。それより、鬼を追いましょう。」