鬼と戦う
夜になっていた。
美由はいつもどおり、夜の街から学園近くを通り、山道を走っている。
赤服の退魔師も美由に続く。
朝のランニングは軽くなので犬もつきあうが、夜のランニングはハードなので犬はつきそっていなかった。
いつも、彼女は山道手前で、ギブアップしているが、今日は山道にも着いて来ている。
本当なら、美由の監視のために着いて来ているはずなのだが、だんだん、彼女自身のトレーニングに目的が変わっている様だった。
彼女は足を止める。
「待って。休憩しましょう。」
彼女はゼイゼイ言いながら、アスファルトに座り込む。
美由も足をとめた。
「別についてこなくても、何もありませんから、そこで休んでいたらどうですか?もう少し走りますし。どうせ、折り返してここに戻って来るんですから」
「そういう、哀れみは好きではないわね。」
「別に哀れみとかではないんですけど・・・。あなたに付き合ってたら目標の距離を走れないので言っているだけです。」
「あら、冷たいわね。」
「さっきは、哀れみは好きで無いと言ってたのに・・・。」
「それと、これは別よ。」
『同じ事だよなぁあ』と、美由は心の中で思った。彼女には彼女なりのルールがあるんだろうと思う事にする。
美由は自分が進むべき道の方を見た。
何かぼやけた光が見える。
『何だろう?はじめてみる光だけど。蛙主やウサギ主はあんな光は放たないし。』
「あの?」
「なに?」
美由は指を指す。
「あのボヤけた光はなんでしょう?こっちに近づいている様な・・・。」
「え?」
彼女は美由の指が指し示す方を見る。確かに何かぼやけた光がこちらに向かっているのが見える。
『なんだ?』
二人は黙って、光をじーっと見続けていた。
そして、認識できる距離までそれが近づく。
それは、鬼だった。
赤というより、オレンジ色の肌をしており、身長は2mを超え、筋肉隆々、見てわかるぐらいハッキリとした短足で、額に二本の角が突き出ており、ボロボロの服を着て、いたるところに大きな傷を負っていた。その傷口はまだ新しいようだった。
「鬼・・。」
退魔師の女はそうつぶやいた。
美由は女の方を見る。
「あれが鬼?」
そういって、鬼の方を再度見て、身構える。
鬼は二人に気がついたようで、両手をあげゴリラの様に二人を威嚇する。
「逃げるわよ。」
退魔師の女は片手を着き、回転するように鬼と反対の向きに立ち上がる。
「何しているの?」
「え、はい。」
美由も、体を反転させ走り始めた。
鬼は二人が走り出すと、物凄い勢いで二人に走りよってくる。
美由は走りながら後ろを見ると、鬼がすぐそこまで来ていた。
「鬼が追ってきますよ。」
「余所見せずに走りなさいよ。」
「そんな事、言ったって、もうそこまで来てますよ。」
美由は全力で走り、赤服の女を追い抜く。
「あ、待ちなさい私を置いていかないでよ。」
「あなた、退魔師でしょ。何とかしてくださいよ。」
「さっきも言ったでしょ、正当防衛でも無い限り鬼を攻撃できないって。」
「十分、正当防衛通じるでしょ。この状況。」
「通じるかもしれないけど、私じゃあんなの無理。」
「ええ!!」
その時、鬼が彼女を攻撃出来る距離まで近づいて来ていた。そして、大きな腕を彼女向けて振り下ろす。彼女は運が良いのか悪いのか、偶然、足を絡ませ転んでその攻撃をよける事ができた。
彼女はアスファルトの上で転がる。勢いあまった鬼の足に転がった彼女の体がひっかかり、鬼も転げる。
美由は足を止めて、後ろを振り返る。
鬼は起き上がり、退魔師へと近づいていく。
彼女は足をくじいた様で立ち上がる事が出来ない。
「っく。絶対絶命って感じね。」
鬼がジリジリと彼女に歩み寄る、彼女は、呪文を唱えると手から炎が現れ、その炎を鬼に投げつける。
炎の塊は鬼に当るが、鬼の服と髪が少し焦げただけで、ダメージを食らっている様にはみえない。
「まさしく焼け石に水ね。私もここまでか・・・。」
美由は、手遅れかもしれないが、テラミルに変身しようとした瞬間だった。
突然、鬼と退魔師の間に強く青白く輝く槍が飛んできて、アスファルトの道路に刺さった。
『何?』
鬼はその槍をみて、道路からはなれ、杉林の奥へと消えていく。
その鬼を追って、3人の男達が杉林の中へと入っていく。
「そこのお二人さん。大丈夫でしたか?」
そう言って、一人の女性が近づいてきた。
そこにいたのは、須王寺麗菜に似た女性だった。
「須王寺さん?」
美由は思わずそう言ってしまった。