歩く
補習終わりに、美由は須王寺と桐野に捕まっていた。
3人しかいなくなった教室で、美由は何故か一人歩かされていた。
「力強くはあるけど、格好良くないわねぇえ。歩くというよりウォーキングね。」
「そうねぇえ。優雅さが無いわねぇえ。」
二人とも好き勝手な事を言っていた。
「あのー。別に歩き方なんてどうでも・・。」
「「よくない。」」
二人同時に美由に注意する。
「あう。」
「ひとまず、桜間さんって、どんな歩き方してるの?」
桐野は腕組をしながら、そう聞く。
「え?まず、歩き出す時は、頭を前にたおして、頭の重みで上半身を倒して、その上半身が落ちる力を利用して、右のかかとからひねるように。踏み出し、スピードがある程度出たら、上半身をあげて、背をピンとして、腰を5cmぐらい落とす感じにして、なるべく歩幅を大きくしながら・・・。」
「ああ、歩きはじめからして優雅でない。」
「頭を前に倒してその重みを利用するのはいただけませんね。」
二人は美由の歩き始めに駄目だしをする。
「こっちの方が早く加速できるので。」
「スピードは問題ではないの。いい?大事なのは優雅さよ。」
「登下校中ならそれでいいかもしれないけど、学園内でそんな効率を求めちゃ駄目よ。」
『何で私が優雅さなんぞを追求せねば・・・。できる限り目立たない感じがいいだけどな。』
須王寺は桐野を見つめ、ニッヤっとする。
「桐野さんいいもの持ってきたわよ。」
「へえどんなの?」
須王寺は自分のカバンからハイヒールというか黒いピンヒールを取り出す。
「おお。」
美由ははじめて、ピンヒールを見た。普通の靴屋には無いからだ。あったとしても、少し足のサイズが大きい自分にあうヒールがあるとは思えない。
「あの、誰がそれを履くのでしょうか?」
「もちろん。桜間さんに決まっているでしょ。」
「私の足のサイズに合う、そのサイズのは・・・。」
「大丈夫よ。ちゃんと調べてるから。探すのに手間取ったけど。」
「さあ、桜間さん履いて。」
美由は一生の中で履きたくないと思っていた靴がある。それがピンヒールだった。そして、目の前に自分用のピンヒールがあり履けと強要されている。
しかたないので、美由は上履きを脱ぎ、ヒールを履いた。
少し足が入り難く、指が変な感じになっている。
「桜間さん履き心地はどう?」
「ちょっと、指先が窮屈な感じです?」
「どれくらい?ほんのちょっと?」
「ええ。だったら問題無いわね。きついぐらいなら変えないとだめだけど。」
「さあさあ、立ち上がって。」
美由は椅子から立ち上がる。ただでさえ身長のある美由がかなり大きく見える。
「なかなか、色っぽいわねぇえ。桐野さん。」
「そうですねぇえ。須王寺さん。」
「バランスを全然とらなくても、立てるんですね。立つだけでガクガクになると思ってました。それに、足にはそんなに負担はこないんですね。でも、その代わりお腹のあたりが結構きますけど。」
「あら、ハイヒール履いた事が無いの?」
「私の足に合うおしゃれ靴はそうそう無いと思いますが。」
「そんだけヒール高が高いと、歩くのに結構コツがいるわよ。」
美由はおそるおそる、ぎこちなく蟹股気味に歩きはじめる。
前かがみになろうとするが、靴の形状がそれを許さない。と、言うより倒れそうになる。
「桜間さん。危ないわよ。そんな歩き方じゃ。」
「え?」
一瞬気を抜いたら美由は横に倒れた。
「あちゃー。」
「はい、立ち上がる。そんな蟹股みたいな歩き方するから倒れるのよ。さっきやったウォーキングみたいに歩きなさい。」
「はい。」
1時間ほど、二人のしごきは続いた。
頭の上に教科書を載せられ、落とさない様に歩かされるのだが、美由は頭を前に倒す癖があるので
歩き出しでそれがなかなかできない。
できる様なったら、今度は腰の動きが男っぽいと指摘される、腰ではなくお尻を振る感じで歩けといわれる。
美由の腰全体を満遍なく使って歩幅を稼ぐアスリート的な歩き方だ。そのため、色っぽさはない。
『プリプリ腰を振るのはなるべくしたくないんだけどなぁあ。』