蛙と魔法少女その1の朋への忠告。
朋はやっと、仲良し三人から抜け出し、美由と約束した階段へと向かっていた。
階段が見えるところまで来ると、美由と蛙主が立っているのが見える。一人と一匹は朋の気配に気づいて、彼女の方を振り向き、蛙主は右手を挙げる。
「よう。お嬢ちゃん。遅かったのう。」
「すいません。友達に捕まってたんで。」
美由の顔が少し曇る。それを感じた朋は慌てて
「あ、大丈夫です。美由先輩にハンカチを返した時に、頭を撫でられた事と、須王寺おねぇえ様が立ち会った事と、二人が3年生を介抱した事に興味があったみたいで、新しい王子様タイプのおねぇえ様の誕生したって言ってました。だから、猫とか、返信のこととか特に触れられることはなかったです。」
美由は、うつむき、肩を落としている。
「王子様・・。王子様タイプのおねぇえ様・・・。」
と、独り言をつぶやいた。
「よかったのう。これで、お主も晴れて学園のアイドル。」
美由は顔をあげ、蛙主を睨む。
「良くありません。せっかく、学園の女子Aという立ち位置を頑張って確立してきたのに。」
大声で反論するが、蛙主はニヤニヤしている。
「いいではないか。わしらも話題が増えるし。」
「私をあなた達の暇つぶしの道具にしないでください。」
朋は二人の会話を、不思議そうな顔をして聞いていた。
「あ、あのー。どうしたんですか?」
蛙主は朋の不思議そうな顔を見る。
「お、そうか、お主は知らんかったのか。こいつは極度の恥ずかしがり屋さんで、目立つのが嫌いなんじゃ。」
「へぇえ。そんな風に全然みえないのに。」
「そのくせに、こやつはドジっ子スキルを持っておってな。思わぬところでドジを踏んで目立つのじゃ。それをからかうと、良いリアクションをするのじゃ。」
「そんな事、言わないでください。てか、やぱっり、からかっているんですね。」
「先輩がドジっ子だなんて驚きです。イメージと凄いギャップがあって。」
朋は真剣なまなざしを蛙主に向けながらそう答えた。
「そうじゃろ。それよりもだ、魔法少女その2よ。」
「あはは。『 魔法少女その2 』ですか。」
蛙主は美由に顔を向ける。
「こいつが、魔法少女その1で、お主が後から魔法少女になったから、魔法少女その2じゃ。」
「はい。わかりました。」
「魔法少女その2よ。まず、わしの名前からを言っておらんかったな。わしは、学園の後ろにある山の蛙の主をやっている、『 蛙主 』という。土地名をとって『三上の蛙主』とも呼ばれとる。」
「三上の蛙主様・・・。ですね。」
「そうじゃ。で、そこの魔法少女その1とも話したのじゃが、お主はこれ以上、わしら化け物と関わるな。」
「はい、そうした方がいいんですか?」
「もちろん、そうしたほうが良い。おぬしはどうやら、存在の薄い化け物を見る力が強いようだし、魔法少女だが、大人の事情のが複雑に絡み合い、時に命の危険や恨みを買う危険性のある化け物と付き合わんが、良いと思うわけじゃ。」
「魔法少女は、子供の頃憧れたけど、命の危険や恨みを買うのはいやですねぇ。私、大人の人の事情とか良くわからないし。」
「もうひとつ、お主がわしら化け物と関わるべきではないと考えているのが、お主と魔法少女との相性の悪さじゃ。」
「相性?」
「化け物と関われば、命の危険や恨みを買って、魔法少女に変身する必要性がでてくるじゃろ。お主が魔法少女に変身した時を思い出せ。あとちょっとで、存在が薄くなりすぎて死ぬ処じゃったんだぞ。」
朋は思い出してみる。あの時、美由先輩がいなければ、自分は魔法少女になったために死でいたのだ。
「うー。」
美由は朋に語りかける。
「朋ちゃん。魔法少女の力は、自分の体内にある精神エネルギーと自分の存在を犠牲にすることなの。私の場合、発動出来る力が弱いから、存在の犠牲はほとんど無いけど、朋ちゃんの場合は、力が強過ぎるから、魔法少女になっただけで精神エネルギーと一緒に存在も強く犠牲にしてしまうの。」
蛙主は朋を心配そうに見つめる。
「お主は、魔法少女その1と違って、体を全く鍛えとらん。精神エネルギーは肉体を鍛えれば有る程度、伸びるからのう。今のお前さんは、精神エネルギーの器が小さすぎる。魔法少女になるにはお話ならんくらいにのう。」
「はい。心にとどめておきます。処で、魔法少女って、何ですか?」
朋は真剣な顔で一人と一匹に聞く。
彼女等はお互い見つめあい、何か間の抜けた顔をしていた。
しばらくして、二人は同じタイミングで首を横にひねり
「さぁあ。」
と、同時に答えた。
「し、知らないんですか?」
「だって、魔法少女は、ワシが便宜上、そう読んでるだけであって、魔法少女その1がそう名乗った分けでは無いしのう。」
「私の変身後の名前はテラミルですからね。それより、蛙主、いい加減、魔法少女という呼び方やめてもらえませんか?もう、私、高三で少女という年齢ではありませんし。」
「まあ、そう気にするな、魔法少女その1よ。これだけ大人ぽいお前さんを、からかっているだけじゃから。」
「そうだったんですか?」
「何じゃ、気づいて無かったのか?わし的に、かなりスパイスを効かせて言ってたつもりだったんじゃが」
美由は右手を顔に押し当て、前髪をぐしゃりと握る。
「私を魔法少女と呼んでた時に、みんな、心の中では、ほくそえんでたんですね。高三にもなって、魔法少女もなかろうにと。」
「まあ、今、ここに、高校1年にして、まるで、中学一年生の様な子が魔法少女になったわけだし、別に魔法少女でええじゃろ。」
「っく・・・・。」
「あははは、確かに私、子供っぽいですよね。」
と、朋は苦笑いを浮かべた。
「私、子供の時、魔法少女にちょっと憧れてましたけど、中学生になった時、流石にもう立派な中学生なのに魔法少女に夢見るのはどうかなと思って、離れたんですよね。」
「こやつは、こんなに大人っぽいのに、高校生にもなって、リアル魔法少女だからのう。しかも、変身時には、あんなに恥ずかしいコスプレだし。他の人が見たら、どれだけ、冷たい目を向けられるか。」
「蛙主、私をいじめないでください。」
「まあ、魔法少女に変身すると、常人では見えないから大丈夫だろうて。気にするな。」
「え?そうなんですか?」
と、朋は驚く。
「そうじゃ。わしら、化け物にはハッキリ見える様になるが、常人の目には見えん。ただ、強い力が発動した場合、微かに見える事もあるし、自分から姿を見せようとすれば、人にも見える。」
「あと、カメラも変身時は写らないみたい。」
「試したのか?」
「・・・・。はい。」
「部屋で、魔法少女のコスプレで写真撮影大会・・・・。後で、皆に報告せねば。」
「報告しないでください。でも、完全に写らない場合と、透明だけどぼやける時と、強い光を放って、見えない場合があって、姿は写らないけど、完全に写らないわけではない場合が結構あります。」
「結構?・・・。何回にも渡って試しているんじゃな。」
「・・・・。た・ただの、じ、実験ですよ。監視カメラに写っても嫌じゃないですか。」
「あははは。美由先輩、面白い。」
「ああ、朋ちゃんまで。それより、本当に私も知らないの。私が知っているのは、私の変身時がテラミルで、朋ちゃんがガラミンだって事ぐらい。」
「魔法少女みたいに、魔物と戦ったりとかはしないんですか?」
美由と蛙主はまた、間抜けな顔をしてお互いを見詰め合う。
「しない。しない。だって、化け物を殲滅が私の使命だなんて啓示なんて与えられて無いし。正義の心で化け物を殲滅なんて、感情も全くわいてこないし。朋ちゃんだってそうでしょ?目の前にいるこの蛙の化け物を虐殺したいという感情はわかないでしょ。」
朋はかがんで蛙主をジーっと見つめる。そして、蛙主の頭を撫でて、ほっぺをツンツンする。
「ぜんぜん、わかないです。」
「でしょ?私がそういった戦闘になったのは1回だけで、その時も殺して無いし。」
「でも、化け物さん達からすれば、魔法少女って敵なんじゃないんですか?」
「この嬢ちゃんを、ワシらは敵とは思っとらんし、別にワシらに害があるわけでもない。何故、敵対する必要がある。」
「そうですよね。」
「こやつは魔法少女じゃが、ただ、そこに居るだけじゃ。たまたま、ここにいるだけであって、それはお互い様であって、仕方の無い事じゃ。何故、ワシらがこの小娘を襲う必要がある。化け物も生きておる。生きていくためには生活をせねばならん。別にわしらに害が無いのじゃから、そんな無駄なことに時間を割く暇は無い。」
「私の噂をばらまく、暇はありますけどね。」
「それは、娯楽じゃ。年寄りの楽しみというやつじゃ。」
「ところで、お二人はどうやって出会ったんですか?」
「それは、ワシが、こいつの足が綺麗じゃったんで、タッチしたら、何故か、精神吸収の能力が勝手に発動してのう。」
「このスケベ蛙が。」
「そしたら、こやつ、魔法少女にいきなり変身してのう。一発、蹴りを喰らってしまったんじゃ。普通は、自分で発動しようと思わないと発動せんのじゃが、あの時は何故か発動したのじゃ。」
「私の時と同じだ。」