バス
放課後になり、美由は逃げ出す様に席を立ち、カバンを取る。
桐野と須王寺が今日ウチに来ると言っているので、それから逃げるつもりであった。
だが、桐野に呼び止められる。
「桜間さん。待ちなさい。今日は絶対、一緒に帰るんだから。」
美由はバツが悪そうな顔をした。
『あの、赤服の女の人に尾行されたら、猫が学校に来なくなった意味がないから、直接は案内したくないんだけどなぁあ。』
携帯で電話していた須王寺が、話の途中で携帯を耳元から放す。
「お二人さん。お待ちになってくれるかしら。今、迎えの車へ事情を伝えている処だから。」
そういって、須王寺は携帯を耳元に戻す。
「はいはい。」
桐野がそう返事をする。
「彼女の車で行くつもりなんですか?」
「さあ。私は知らないわよ。」
須王寺は、電話を切り、ポケットにしまう。
「さあ、お二人さん行きましょうか?」
「行くって、まさか、須王寺さんの車で行くつもりなんですか?」
「いいえ。車には待機してもらうように伝えました。桜間さんと一緒に歩いて行くのよ。」
「うちは、遠いですよ。普通にあるけば30分ぐらいかかりますけど。」
「あら、気にしなくてよ。」
「そんなに遠いなら、自転車かバスにすればいいのに?」
そう桐野が言う。
「個人的な問題なので・・。今日はバスで帰りましょうか。」
「あら、良いわね。私、実はバスってはじめてなの。楽しみね。」
三人は仲良く校門へと向かった。
その時、朋と加奈が3人を見かけた。
「見てみて、朋ちゃん凄いよー。」
と、加奈が朋に語りかけた。
「何が?」
朋は、加奈の指差す方を見ると、向こうの方に美由と桐野と須王寺が仲良く歩いているのが見えた。
「美由先輩と須王寺おねぇえ様だ。後、一人は誰だろう?」
「ん?知らない?ウチの三年全体で一番の桐野さんよ。お嬢様嫌いで有名な。」
「へぇえ。でも、須王寺おねぇえ様と一緒だよ。」
「これは、事件ね。」
「何でそうなるかな?」
「ウチの三年女子の1位2位3位がそろって、仲良く3人で下校よ。既に事件よ。」
朋は美由を視線で追いかける。その先に今朝、自分に吼えた大きな黒犬と、自分を連れて行こうとした赤服の女がいた。一頭と一人のペアは、明らかに存在を薄くして美由を見ていた。
美由は校門前に、赤服の女と、大きな黒犬がいて自分を見ている事に気づく。
このペアは明らかに消えていた。そして、自分に顔を向け、満面の笑みを浮かべている。
『まいったなぁあ。最悪の事態だな。今日は一緒に帰る人がいるから、言葉をかけるわけにもいかないし・・・。』
美由はこのペアを無視してすれ違った。
赤服の女は美由達から少し距離を取り、尾行をはじめた。
『もう、何なんだろう。』
3人は校門近くのバス停に辿りつき、時刻表を見る。
「もうすぐ、来るみたいですね。」
美由がそう言うと、バスが入ってきて、入り口を開けた。
「私がいつも使っているバスね。一緒の方角なのね。」
そう桐野が言う。
「バス楽しみですわ。」
「須王寺さん。バスの入り口に紙が出ているでしょ。あれを取るの。」
「何でですか?」
「何処で乗ったか証明するためよ。」
そういって、桐野バスに乗り込むが紙をとらない。
美由は紙をとる。それを見て、須王寺も紙をとった。
「何で桐野さんは紙をとらないの?」
そう須王寺が質問する。
「ああ、私は定期があるから。」
二人がそう話している間に、赤服の女と黒犬も乗り込んでくる。
当然、彼女等は紙を取ろうしなかった。
「さあ。座りましょ。奥の方が開いてましてよ。」
そう須王寺が言う。
「ああ、私のウチはバスだったら直ぐですから、立ってましょう。」
そう言って、美由はつり革と掴んだ。
「これ、人が触っているんですよね。」
そう、須王寺が言う。
「気にする事は無いわよ。後で手洗えば問題ないわよ。」
そういって、桐野もつり革を掴んだ。
須王寺はハンカチを取り出し、つり革を掴む。
「須王寺さん。目立つ上に変に思われるわよ。」