朋と黒の大型犬と桐野のジャケット
変な女から逃れるため、美由はいつもより速く歩いていた。
でも、明らかに後ろからついて来ている。
『弱ったなぁあ。どうも、私は変な人に絡まれやすいらしい。』
美由は振り向きもせずに、学園へと向かう。
赤服を着た女性と黒の大型犬は小走りで、美由を追う。
「あら、こう露骨に逃げるなんてますます怪しいじゃない。」
彼女は小走りをしながら、そう口走った。
実際のところ、変な女と犬が自分をつけていれば、誰でも逃げたくなるはずなのだが、彼女はその点に気がついていなかった。
学園の校門が見えてきて、美由は『あと一息。』と思う、まさか、学園までは追いかけて来る事は無いだろうと思っていた。
その時、後ろにいた犬が「ボウボウ」吼え始めた。
美由は今まで意地でも後ろは向くまいと思っていたが、流石にこの犬の反応はおかしいと思い後ろを向いた。
犬と女性は立ち止まっており、美由の方を向いていない。
犬の視線の先にいたのは、朋だった。
朋は明らかに脅えている。
赤服の女性は慌てて、犬の首を抱きしめる。
「どうしたの?メリー。落ち着きなさい。」
そうすると、犬は吼えやめた。
彼女は犬の視線の先にいる朋を見た。
「あら、あなたも見えてるの。」
「き、昨日の犬さん・・。」
「あら、お知り合いなの?」
「昨日、学校の裏の坂道処で、噛まれそうになりました。」
赤服の女性はメリーが人間を襲わない事を知っている。襲うとすれば化け物となんらかの関係があるという事だ。
「ふーん。」
赤服の女性は朋の肩を強引に掴む。
「ちょっと、あなた、話があるの。」
「きゃ、やめてください。」
登校中の他の生徒には、赤服の女性が見えないので、朋が変な事を言って突然、変な動きをしはじめたようにしかみえない。
美由は朋に走りより、赤服の女性の手を掴み、朋の肩から彼女の手をはずす。
「ちょっと、やめてください。」
「あら、あなた達、知り合いなの。おねぇえさん、ますます、あなたがたに興味が沸いたわ。」
美由は朋の手首を握り引っ張る。
「朋ちゃん行くよ。」
「は、はい。美由先輩。」
朋は美由に引っ張られるようして歩きだした。
校門を過ぎ、朋が美由に話かける。
「今の人、何だったでしょうか?」
「さあ、さっき、いきなり私に絡んできてずっと、着けて来たんだけど。それより、学校の裏の坂道の話って何?」
「昨日、あの犬さんとは別にですね。化け物のブルドッグに絡まれて、ウチまで連れて帰れと。その途中、あの犬さんが道を通せんぼしてて、いきなり襲ってきたんです。で、その時、カエルさんに会ってですね。助けを借りて、何とかそのブルドッグさんを、あの犬さんが通せんぼしている向こう側まで連れて行くことに成功したのです。」
「む?良くわかんないなぁあ。まあ、蛙主も絡んでいるのか」
美由は朋と別れ、自分の教室にやってくる。
すると、桐野が「おはよう」と美由に声をかけてきた。
「おはようございます。桐野さん。」
美由は着ていた、ジャケットを脱ぎ、桐野に渡す。
「ジャケット、有り難うございます。」
桐野はキョトンとした顔をしていた。
「桜間さんって、変な処で抜けているのね。」
「何ですいきなり?」
「だって、普通、こういうのって、着てこないで、紙袋に入れて渡すものかなと。クリーニングとかして」
「あ。だったら・・・。」
「良いわよ。私的には今をときめく桜間さんの脱ぎたてを着られる名誉を与えられたわけだから。」
「決して褒めてませんよね。」
「そんな事ないわよ。私的には変に気を使われるより良いし。でも、今度は気をつけなさい。礼儀が無い人間と思われるのはイヤでしょ。」
「はい。」
桐野はジャケットを羽織った。
「うーん。桜間さんの臭いがする。」
「そんな変態みたいな・・・。」