退魔師の女
夜になった。
学園そばの坂道を占領している犬に近づく女性がいた。
歳は30に近くの女性で、明らかに日本人なのだが、髪はボリュームの無いぺったりとしたストレートのショートカットを強引に金髪にしており、朱色を少し黒に振った様な色の修道服ともとれるカッコウをしていた。
犬は女性はに擦り寄ってくる。
女性は犬の頭をさすりながら話かける。
「私の方はボウズ。あんたの方はどうだった?と、言ってもあんたはしゃべれないか。」
女性はタバコぐらいの大きさのプラスティックケースを取り出し、それを空け、犬に差し出す。
そこにはドッグフードが入っていた。
犬はそれにかぶりつく。
「よしよし。」
彼女はそういいながら、犬の腹をさする。
「この街は、結構、化け物多いけど、チキンでチンケなヤツ等ばかりね。化け物といっても、見つけるヤツ見つけるヤツ動物のモドキばっかで、いかにもってヤツが全然いなし、こんだけハッキリ退魔師ですって主張しているカッコウしているのに、私を見るなり逃げるやつらばっかり。あまりに退屈なんでチンケなヤツでも狩ってやろうかと思ったら、すっかり身を隠して、全然、会いやしない。もう五日もこの街うろついているのに、化け物が悪さしたっていう情報すりゃ入らない。全く、化け物なら化け物らしく、悪さしろってーの。こんなに沢山いるんだからさぁあ。」
彼女は地面にお尻をつける。
「ああぁあ。これじゃあ。おまんま食い上げだよ。退魔師って化け物が悪さをしててさ、被害にあっている家から、大金を巻き上げるのが仕事じゃん。それが、この街が全然よ。ねぇえ聞いてる?」
犬は餌をバクバク食っているだけである。
彼女は道路を見渡す。
「ここは化け物の通り道なんだから、ここ塞いでいりゃあ。あんたを襲う化け物もいると思ったんだけど、どうも、全然いなかったみたいね。よわっちい動物の化け物狩っても、引き取ってくれる場所に連れてくだけで、赤が出るし。しかも、動物モドキってさあ。少し痛めつけるだけで、簡単に存在がなくなるじゃん。あそこまで、連れてってもそこまで生きていてくれるか保障ないし。あんたが強い化け物を捕らえてくれりゃあさあ、その金でしばらく遊べるのにねぇえ。」
犬はケースの中身を全部食べ終えた。
彼女はケースを閉じ、ポケットにしまう。
「どうしようかしら。こう退屈で何も無いと、事件を捏造したくなるじゃない。」
犬は彼女の赤いスカートを口にくわえ、こっちに来いと言わんばかりに引っ張る。
「なに?メリー。何か見つけたの?」
彼女は犬の引っ張る力に無理に抵抗せずに、ついて行く。
坂道を降り、学園の比較的入りやすい有刺鉄線が無いフェンスをよじ登っていく。
「何?この学校の中に入れって?」
犬は彼女の声に反応する事もなくそのまま、フェンスをよじ登り、グラウンドへと降り、彼女の方を向いて「バウ」と吼えた。
「はいはい、分かったわよメリー。」
彼女も軽々とフェンスを登り飛び降りる。
犬はそれを確認すると、スタコラと校舎の方へと向かった。
『何かしらね?いったい。別段、魔法的なものがあるとは思えない建物だけど。』
犬は暗いグラウンドを横断し、校舎の入り口へと向かう。そして入り口の前に来て、メリーは入り口を爪で掻き毟りはじめる。
「何?この校舎の中?。強い魔力でも感じたの?」
犬は彼女の方を向き、「ばう」と一度吼えて、入り口を掻き毟るのやめ、その場に座りこむ。
「ふむ、何か強い魔力を感じたのは確かみたいね。」
彼女は目を閉じ魔力をさぐる。
「確かに何か痕跡の様な微かなものは感じるわね。もう、効力を失っているみたいだけど、この感じは呪いかしらね?でも、効力を失って数日は過ぎているみたいだけど・・。」
どうも、彼女が感じているのは片奈が美由にかけた呪いの様だった。彼女はメリーを見た。
「あんたが、あの坂を占拠してたのは、今朝からだから、多分、これじゃないわね。あんた真面目だから、あそこから動かないだろうし。今日、この学園のこの校舎の中で、あの坂からでもハッキリわかるぐらいの魔力が発動した・・・。どいう事なのかしらね?」
そう言って、彼女は歩きはじめる。
「この学園をちょっと、探索してみましょ。」
対象の校舎をぐるりと回り、裏に回る。
彼女は突然、手を上げ、上げた手を振り下ろす。
手の先から、小さな光の弾が物凄いスピードで飛び出し、何かに当たる。
「にゃ」
そう言って、飛び出したのは茶トラのメス猫だった。
「あら、何かいると思ったら、化け物猫さん。私、退屈なの一緒に遊びましょ。遊んでくれたら良い所に連れて行ってあげるわよ。」
茶トラのメス猫は、そんな言葉など全く聞いておらず、飛び上がった後すぐに、彼女と反対方向へ逃げ出していた。
「メリー行きなさい。」
そう言うと、犬は飛び出し、猫を追いかける。
「全く、人の話はちゃんと聞けってーの。」
彼女そう言って彼女も走りだした。
猫より犬の方がスピードが速かった。犬は徐々に猫との距離をつめていく。
彼女は手を振りかざし、光の弾を放つ。その弾は、猫の目の前に着弾した。
一瞬、猫の足が止まり、犬にかみつかれそうになるが、素早く方向を切り替え逃れる。
猫はフェンスまでやってくる。フェンスの前にはレンガで出来た花壇があり、緑のブロックの様な植え込みがずっと続いている。猫は植え込みに飛び込み、はう様に植え込みを進み、フェンスに辿りつく。ここのフェンスは花壇との間に僅かに隙間があり、もぐりこむ様に頭を低くしてフェンスを抜けていった。 犬は緑のブロックの様な植え込みの周りをノソノソとうろつくしかなかった。
「あら、逃がしたの?残念ね。でも、結構、面白そうな学校みたいね。ちょっと調べてみようかしら。」