陽動作戦。
茶トラのメス猫が語りはじめる。
「陽動作戦かにゃ?でも、自分は上からの命令があるんで、行けないにゃ。」
「わかっておるわ。」
「まあ、私を助けないなんて、生意気な猫ね。」
「助ける道理が無いにゃ。」
「可愛ければ、助けるそれが、道理でなくって。」
『そんな無茶苦茶なぁあ。私はウチまでついてこられるのがイヤだから付き合ってるだけだし。』
朋はそう思った。
「そんな事より作戦じゃが、あの坂道の角の家の裏側から、この犬を行かせる。」
「はい」
「あの角の家のブロック塀は高いから、この犬じゃ登る事ができんじゃろ。そこで、魔法少女その2が手を貸してブロック塀に乗せる。」
「分かりました。」
「その後、わしを頭の上に乗せ、ちゃんとしたルートで犬に会い、犬の気を引く。」
「ええ、犬の側まで私も行くんですか?」
「もちろんじゃ。ワシじゃ怖くて、動けなくなる。しかも、足が遅いから、噛まれる可能性もあるじゃろうが、来たら全力で逃げるのじゃ。」
「うう。」
「で、あの犬があなた達を襲っている間に私が抜ければいいのね?」
「そういう事じゃ。」
猫と別れ、二匹と一人は坂道の角までやってくる。
朋はブルドッグを持ち上げ、ブロック塀の上に乗せようとするが、ちょっとだけ届かない。
「うー。届かないのです。」
「頑張りなさい。」
朋はジャンプする。置けそうなのだが、犬を置けない。
「もう少しよほら。」
何度か挑戦し、何とか犬を塀に置いた。
「有り難うね。後は、あなた達次第よ。」
そう言って、犬はブロック塀をゆっくり優雅に歩きながら家の裏に回った。
「さて、魔法少女その2よ。ワシを頭の上に乗せてくれ。」
「本当に大丈夫なんですよね?」
「ワシにまかしておれ。」
蛙主は何か自身満々だった。
朋は蛙主を頭に乗せて、坂道を登る。
そこには相変わらず、犬が陣取っていた。
犬は、蛙主を確認すると、問答無用で立ち上がり、走り出してきた。
「魔法少女逃げろ。」
「ええ。」
朋は体を切り返し、慌てて坂道を下る。
犬は猛スピードで、朋に噛み付こうとするが、一瞬朋が早く動いたので噛まれずにすんだ。
犬はフェンスにぶつかり、高い声で鳴くが、直ぐに方向を変え、朋に走りより、簡単に朋に追いつく。
「魔法少女、体を横に切れ。」
朋はまっすぐ走っていたが、すぐに方向を変えるが、足が絡まりコケる。
頭にいた蛙主は坂道に投げ出され、コロコロと転がっていく。
犬は朋に襲い掛かろうとはせずに、迷わず、蛙主を追う。
蛙主は起き上がり、二本脚で立って走り始める。
「何でいつもワシだけなんじゃあ。」
蛙主はぎりぎりの所で、側溝へと逃げ込んだ。
犬は側溝に首を突っ込むが、あきらめて、元いた位置へとゆっくりと帰っていく。
犬はすれ違う朋に何の関心ももたず、スルーして行き過ぎた。
「ふう」