魔法少女と魔法少女と蛙と猫
朋のバトルコスチュームは解除された。
美由は学校の制服に戻った朋を抱きながら
「大丈夫?」
と、言った。うつろな顔をしながら朋は
「はい。でも、力が抜けちゃって、体に力がはいらないです。」
「待ってて、今、力を少し分けるから。」
バトルコスチュームのままの美由の両手が緑色の光で包まれ、朋の頬に触れている左手と朋の手を握っている右手から力が注がれる。
朋の顔が、うつろな表情から、だんだん、ハッキリした表情へと変化する。
「立てそう?」
「はい、だいぶ、力が入るようになりました。」
そういって、朋は起き上がる。それを確認して美由も学校の制服姿に戻った。
後ろから声が聞こえてくる。
「派手な音が聞こえたと思って来てみれば、魔法少女がもう一人増えてるとは。」
それは蛙主だった。蛙なのに二本足でぺたぺたと、二人に歩み寄ってくる。
「持久走大会の時の蛙さん・・・・。」
「おう。お嬢ちゃん、お久しぶりだの。それより、かなり、大きな音がしたから、こっから逃げろ。先生達がくるぞ。話は学校が終わったら、またここに集まればええじゃろう。」
朋はコンクリートに叩きつけられ、伸びている猫を見つめ
「猫さんはどうするんですか?」
と、言った。
「ひとまず、わしが、こいつを動けない様にしておく。」
「それは困りますね。」
二人と一匹の背後から声がする。彼女等は声がした方を向く。
そこには、黒い傷だらけの大き目の猫がいた。
「その猫は、私達、猫に渡して貰います。」
「お主、ここら辺を縄張りにしているボスか?」
「いいえ、私は使いっぱしりです。」
「それで、何故、この猫を引き渡せと?」
「猫には縄張りがあります。こいつは勝手な事をしました。こいつがやった事は我々化け猫を危険にさらします。落とし前をつけないと我々の身も危ないんですよ。」
「しかたないのう。」
『何がしかたないんだろう?』と朋は思ったが、『落とし前』という言葉の方が気になった。
「いじめるんですか?」
「少しは罰を与えないといけませんが、殺しはしません。我々化け猫社会を守るためには必要なので。」
「この子は、ただ、怯えていただけなんです。」
「わかってますよ。こいつは、この学校の生徒が餌を与えるもんだから、ここら辺を根城にしていた猫なのですが、今日、突然、化け猫になったらしく。どうして良いかもわからず、学校内を彷徨っていたら、いつも、餌をくれる女子を見かけて飛びついたみたいなんですよ。それだけで、あれだけの事件になる。だからこそ、こいつに化け猫社会のルールを教える必要があるんですよ。」
「あんまり、酷い事をしないのなら渡します。約束して下さい。」
「約束しましょう。」
二人と二匹は、その場を離れる。
去り際に、傷だらけの黒猫は二人の魔法少女に対し捨て台詞を吐く。
「そうそう、魔法少女のお二方、以後、お見知りおきよ。」
朋も美由も猫の捨て台詞に無言のまま、歩き続ける。
美由は朋と一緒に歩きながら、朋の顔を見る。
「朋ちゃん。存在を薄くできるよね?」
「え?・・・・・。」
朋はそんな事知らないと思ったが、何故か知っている事に気づく。
「はい、わかります。」
「だったら、先生に見つからない様に、存在を薄めて。」
「え?はい。」
朋は歩きながら目を閉じ、力を集中する。そして、普通の人では認知できないぐらいまでに、存在を薄めることが出来る。
『この子・・・。私より姿を薄く出来るのか。私は集中してもここまで出来ない。』
朋は美由を見つめる。
「こんな感じでいいでしょうか?」
「いいわよ。とっても。私より上手かも」
「そんなぁあ。」
「私も消えるわ。」
そう言って、美由は存在を薄める。美由は朋を見つめる。
「私の事、見えてる?」
「はい、なんとか。」
大きな音がした事を確認しにきた先生が、向こうから歩いてやって来るのが見えた。
朋は先生の姿を見て一瞬びっくりするが、美由が背中を「ポン」と、叩いてくれたので安心することが出来た。
二人は、先生をやり過ごす。
「ありがとうございます。かなりドキドキものでした。」
「そう、それより、授業に遅れちゃったわね。そっちの言い訳の方が大変そうだけど。」
「そうですね。」
「こう言いなさい。3年の教室に行っていたら、突然女子生徒が倒れるの偶然見て、救急車で運ばれる生徒を見ていたら、気分が悪くなってトイレの中にいたと。」
「わかりました。でも、私、嘘が苦手で」
「後は、ひたすら謝って、沈黙を通しなさい。」
「はい。」
「後、話が在るから、放課後さっきの階段の処まで来なさい。」
「わかりました。」