「ねえフランソワ、魔族って言葉は話せるのに言葉が通じないらしいですわよ」「ほうか。それは面白いのう」「貴方って魔族なんじゃない?」
「フランソワ様から離れなさい!貧乏人の小娘が!」
「あらぁ、天災で領民の生活の立て直しにお金を使ったから没落気味とはいえわたくしは侯爵家の娘でしてよ?小国出身の姫様におかれましては、所詮貴族令嬢など…と思い上がるお気持ちもわかりますが、我が国では「侯爵家の娘」というのは姫様に苦言を申し上げられる程度の立場ですのよ?お分かりかしら。それにフランソワと婚姻が成立すれば実家も持ち直しますわ」
「やっぱり金目当てじゃないの!」
「うふふ、貴女だってそうでしょう?それともフランソワの顔目当てかしら?でも顔のことを言うのならその辺の雑草みたいな貴女よりわたくしの方がフランソワに相応しくてよ」
「な、なんですって!?」
わたくしに言葉に逆上した姫様がわたくしの頬を打つ。
しかしわたくしはそれに微笑んで差し上げた。
「ふふ、これでおあいこということで。わたくしの戯れ言もお許しくださいね」
「は、はぁ!?」
「ところでフランソワ。貴方わたくしの婚約者でしょう。なに隣からわたくしを観察していますの?助けなさいな」
「姫様に絡まれるとめんどうやき。というか、お前なら大丈夫やろ。鋼メンタルやき」
「でもそのせいで打たれたんですわよ。貴方が助け舟を出さないのが悪いんですわ」
わたくしが恨みがましくそう言うと、フランソワはわたくしの頬に触れる。
「ほい、治癒魔術。これで痕も残らんきに」
「まったく、そういう問題ではなくてよ?」
「なんでや、そういう問題やろうが」
「顔と金には問題ないのに、この性格が全部をダメにしていますわね」
こんな男が婚約者とは、わたくしもつくづくついていない。
家のためにお金は必要なので、結納金をたっぷり用意してくれるフランソワとの婚約に文句はない。
だがフランソワ個人への文句は数えきれないほどある。
「ねえフランソワ、貴方それだけお金持ちで顔もいいのに周りに人が寄り付かない理由は察していて?」
「わからへんなぁ。なにが悪いんや。いいとこばっかやろ?」
「そういうところですわ、おバカ」
「なんでや、というかそれを言えば侯爵家のご令嬢のお前に取り巻きがいないのだっておかしいやろ。大丈夫大丈夫、似た者夫婦や。お似合いやで?」
「ぶっ飛ばしますわよ?取り巻きになろうとする子の大半が貴方目当てに近づいてくるバカだからお断りしてるんですわ」
わたくしの言葉にフランソワはケタケタ笑う。
「すまんな、わしがモテるばかりに。でも浮気はせえへんから許してや」
「んなもの当たり前ですわ。わたくしの隣に立てるだけで貴方は幸運ですことよ」
「そりゃそうや!お前ほどの美人も、お前ほどの心の綺麗な女もわしは知らん。お前の家族は領民たちのために私財を投げ打ち、お前はその家族のためにわしに嫁ぐと決めた。そういうところに心底惚れたんや、浮気なんてせえへん」
自分を好いてくれている姫様の目の前で、突然お惚気るフランソワ。
姫様は顔を真っ赤にして逃げた。
「フランソワ、いくらなんでも姫様の前でそれはないんじゃなくて?」
「…なにがや?」
「無自覚ですのね…なんてデリカシーのない男なの…」
その日はそれで話は終わった。
後日、わたくしは学園長に呼び出された。
「タルトくん。君は留学に来た他国の姫君を「所詮小国の小娘」とバカにして頬を打ったそうだね」
「…そんなことしておりませんわ、学園長。わたくし、むしろされた側ですわ」
「だが姫君の祖国から苦情が…」
「ちょうどその時、隣にフランソワがいましたわ。彼に確認すれば確実ですわよ」
「ああ…確かに彼なら、婚約者だからと言って君に味方することはなさそうな気もするが…いやでも婚約者だしなぁ」
にっこりと学園長に微笑むわたくしに、学園長は困った顔をする。
「大丈夫、彼は婚約者であるわたくしの味方はしても「わたくしのために嘘までつく」ことはないですわ」
「うん、自分で言ってて悲しくないかね」
「あの男の婚約者になった時点で諦めてますわ」
「…わかった。なら改めてきちんと調査しよう。君が謝ってくれるのが一番手っ取り早く丸く収まる道だったんだがなぁ」
「あら、わたくしが無実だとわかっていて面倒くさいから責任を被せようとしたんですのね。酷い方」
学園長は困ったように頬を掻いてから謝罪してくる。
「悪かったね。だがそもそも真面目にあのわがまま姫の相手をしてしまった君にもそれなりに悪いところはあるだろう?」
「それは―…」
「それはないきに、学園長」
ドアが開いて、フランソワが勝手に学園長室に入ってきた。
「タルトの言う通り、わしは嘘をついてまでタルトを庇ったりしぃひん。けど、タルトの味方なのに間違いはない。タルト一人に責任を被せようとしたのは実家経由で正式に抗議するきな」
「ま、待ってくれフランソワくん。少なくとも今回の呼び出しは軽い事情聴取のつもりでもあってだね」
「言い訳はいいからタルトにもっとちゃんと謝りや」
「…すまなかったね、タルトくん」
「ええ、別に謝っていただければ構いませんわ。親には言いますけど」
「ぐぬぬ…」
…この方が学園長で、この貴族学園は大丈夫なのかしら?
なんだか不安になってきましたわ。
まあ無事卒業出来れば用はないのでいいですけど。
それも込みでお父様に報告しなければ。
ところで。
「ねえフランソワ、いつから聞いてましたの?」
「最初からや」
「元々はこの間、貴方がわたくしを最初から庇っていればこうはならなかったはずではなくて?」
「いや、まさかあの女がこんな性悪と思わんやろ」
「そこに関しては同感ですけど」
性悪のお姫様は、自分がわたくしにしたことをそのまま「わたくしにされた」と主張したらしい。
まさに性悪。
「しかも学園長があの姫様の味方するなんて誰が思う?」
「それもそうですわね」
「ぐぬぬ…」
「でもあれやな、タルト」
「なんですの、また余計な一言を言うなら頬を打ちますわよ」
「いやいや、変なことやない。ただ…最近流行りの、断罪劇の悪役令嬢に仕立て上げられてるみたいやなぁって」
「あら、珍しくわかってるじゃありませんの。そうですわ、わたくし悪役令嬢にされてますのよ。姫様がヒロイン役ですわね」
「なら逆ざまぁモノにジャンルを変えんとな。ヒロインをざまぁして悪役令嬢はハッピーエンド!悪役令嬢のヒーローはもちろんわしや!」
「はいはい、なら口だけ動かしてないで「根回し」に行きますわよ。証拠集めは早い方がいいですわ」
「わしはそういうのは苦手やけど、タルトについて行けば役には立つかの?」
「女の子相手なら役に立ちそうですからついてらっしゃい」
「ほーい」
「…うーん、小国とはいえ一国の姫様相手になんて胆力だ。タルトくんとフランソワくんの味方をしておいた方がよかったかな」
「タルト様、謝ってください!私、タルト様に責められて頬を打たれて…治癒魔術がなければ傷物になっていたかもしれないんですよ!?」
「それについてなんですけど、わたくしあの時その場にいた方々に聞き込み調査をしましたの。これがその結果ですわ。わたくしが姫様を打ったと主張する者はゼロ。むしろわたくしが姫様に打たれたと主張する者が多いですわ!」
「え!?な、なんで、私は姫なのに!みんな私の味方をしてくれないの!?」
「そりゃあ、偽証がバレたら裁判で裁かれますもの。誰も姫様の寵愛欲しさだけで偽証なんてしませんわ」
「ちなみに証言を資料にまとめたのはわしや」
「そんな、フランソワ様…どうして、そんな悪女なんかの味方…」
フランソワが少し不愉快そうな表情をしたあとカラッと笑って言った。
「タルトは姫様と違って嘘は吐かんし、いい子やし、優しい子や。惚れて当然やろ?悪女はアンタやで、姫様。これからざまぁされるのもな」
「え?」
「姫様、大変です…!祖国に姫様の所業が全て暴露され、怒った国王陛下が姫様を緊急で呼び出しています…!このままだと、祖国でどのような処分をされるか…」
「う、嘘…嘘でしょう?私は悪くないのに、なんでお父様は怒ってるの…?お父様は私の味方をやめたの…?フランソワ様も手に入らず、お父様に嫌われたということ?私が何をしたって言うのよ…!」
取り乱す姫様は、侍女たちに連れられて祖国へ送られることに。
わたくしとフランソワは完璧な勝利を決めた。
「晴れて悪役令嬢は幸せな日常を取り戻しましたとさってな!」
「ああ、疲れましたわ…でもちょこっとスカッとしましたわね」
「さすがはわしのタルトじゃ!よくやった!」
肩をバシバシ叩いてくるフランソワ。
わたくしはそんなフランソワに言う。
「ねえフランソワ、魔族って言葉は話せるのに言葉が通じないらしいですわよ」
「ほうか。それは面白いのう」
「貴方って魔族なんじゃない?」
「なんでや!今回は役に立ったし余計なこと言ってへんやろ!」
「だって元はと言えば貴方のせいで起きた騒動なのに上機嫌だから…」
「ああ、わかったわかった。今度デートで美味しい店に連れて行くきにそれで手を打ってや」
「それだけ?」
「巻き込んですまんかった。次は面倒でもわしが女の子の相手は引き受けるきに。もちろん浮気はせえへん。それで許してや」
「…はぁ、今回だけですわよ」
「タルト、許してくれるんやな!愛してる!」
「面倒な人ね、まったく…」
ということで、わたくしとフランソワの噛み合わない日常はまだ続くらしい。




