第15話「王室密偵と、整理券番号による呪縛」
王室情報局、特A級エージェント「ノワール」。
暗殺、破壊工作、情報収集のすべてを極めた彼は、辺境の街にある冒険者ギルドの前に立ち、ゴクリと唾を飲み込んだ。
(ここが、アリス局長に「王族すら凌駕する帝王学」を授けたという、謎の賢者『ルーク』が潜む魔窟……!)
アリスが王都でルークの「マクロな防衛理論(※ただのゴミ拾い)」を絶賛した結果、王室情報局は「地方ギルドで軍事的なクーデターが企てられているのではないか」と疑念を抱いた。
ノワールの任務は、新人冒険者「ノーマン」として潜入し、ルークの尻尾を掴むことだ。
彼はフードを目深に被り、気配を完全に殺してギルドの扉を開けた。
一歩足を踏み入れた瞬間、ノワールの背筋に悪寒が走った。
(なんだ……この統率の取れた空間は! 荒くれ者の冒険者たちが、誰一人として騒がず、等間隔に並べられた椅子に静かに座っている……! どんな強力な精神支配魔法を敷いているんだ!?)
かつての酒場のような喧騒はない。皆、虚空を見つめるかのように大人しく座っている。
ノワールが油断なく周囲を観察しながら、ギルドの奥、事務長室への侵入ルートを探ろうとしたその時だった。
「おい、そこの新入り」
背後から、地を這うような低い声がした。
ノワールは咄嗟に隠し持った短剣に手を伸ばしかけたが、相手の尋常ではない「殺気(※徹夜明けの疲労)」に気圧され、動きを止めた。
振り返ると、目の下に濃いクマを作った鋭い目つきの青年――ザックが立っていた。
「ここでのルールを知らねえのか? いきなり奥に行こうとするな。まずは『コレ』を引け」
ザックが突きつけてきたのは、木製の小さな箱だった。上面にスリットがあり、紙の端が飛び出している。
(呪具か!? いや、踏み絵の一種か……?)
ノワールは警戒しながら、その紙を引き抜いた。
そこには『整理券番号:45』とだけ書かれていた。
「よし。自分の番号が『音星』で呼ばれるまで、そこの白線の内側で待機しろ。一歩でもはみ出したら……わかるな?」
ザックは首をコキッと鳴らした。ただの「順番待ちの案内」なのだが、元チンピラのザックがやると完全に脅迫である。
「……ッ!」
ノワールは脂汗を流しながら、指定された長椅子に腰を下ろした。
(恐ろしい……! この小さな紙切れを受け取った瞬間、私はこのギルドの『システム』という名の巨大な魔法陣に組み込まれてしまった。あの白線から出れば、即座に不可視の結界が発動し、細切れにされるに違いない……!)
ただの待合室の白線テープを「即死トラップ」だと勘違いしたノワールは、微動だにできなくなってしまった。
その後、約四十分間。彼は姿勢を正したまま、自分の番号が呼ばれる恐怖に耐え続ける羽目になった。




