第12話「衛生管理(という名の組織犯罪撲滅)」
アリスが「CEO」に就任してから一ヶ月。商業区画のメインストリートは、恐ろしいほどに浄化されていた。
落ちているゴミはゼロ。迷子は発生から三分以内に保護。そして、ポイ捨てをした者は、もれなくアリスによる「愛のボランティア指導(という名の無休労働)」が待っている。
街の住人は彼女を「白銀の清掃騎士」と呼び、恐れ敬っていた。
そんなある日、他都市から流れてきた新興の盗賊団「黒蛇の牙」が、この街の商業区画に目をつけた。
彼らは露店が並ぶ通りに現れると、みかじめ料を要求して暴れ始めたのだ。
「おうおう! 商売したきゃ、俺たち黒蛇様に挨拶の金貨を払いな! 払えねえなら……こうだ!」
ドガシャァン!
盗賊のリーダーが、果物屋の木箱を蹴り飛ばし、売り物のリンゴが石畳に散乱した。悲鳴を上げる市民たち。
そこに、聞き慣れた清らかな、しかし地獄の底から響くような声がした。
「……何をしているのですか、あなたたち」
盗賊たちが振り返ると、そこには白銀の鎧を着たアリスが立っていた。
彼女の目は、かつてないほどの怒りに燃えていた。しかしそれは、市民を脅かしたことに対する怒りではなかった。
「貴様ら! せっかく私が昨日ワックスがけ(※布で乾拭き)した石畳に、果物の汁を撒き散らすとは……! これは明確な『景観破壊』および『業務妨害』です!!」
「あぁん? なんだこの小娘、騎士のコスプレか?」
盗賊たちが下品な笑いを浮かべ、ナイフを抜いてアリスを取り囲んだ。
しかし、アリスは全く動じない。彼女の脳内には、ルークから叩き込まれた「コンプライアンス・マニュアル」が完全にインストールされていた。
「警告は無視されましたね。これより、悪質な違反者に対する『強制排除』を実行します」
アリスは腰に下げていた「公式CEOバッジ(木彫り)」を高く掲げた。
次の瞬間、彼女は目にも止まらぬ速度で踏み込み、盗賊のリーダーの鳩尾に、手加減なしの拳を沈めた。
「ぐへぇッ!?」
リーダーはくの字に折れ曲がり、石畳の上をスーパーボールのようにバウンドして気絶した。
「なっ……! や、やっちまえ!!」
残りの盗賊たちが一斉に襲いかかるが、アリスは彼らのナイフを素手で叩き落とし、次々と関節を極め、ロープで縛り上げていった。
「痛い! 腕が折れるぅ!」
「あなた方の行為は、当ギルドの『環境美化ガイドライン』第3条に違反しています。法外な罰金と、向こう三ヶ月の清掃労働が科せられます!」
ものの三分で、凶悪な盗賊団は「不法投棄の現行犯」として一網打尽にされた。
後日、報告書を受け取ったルークは「盗賊団? ただの粗大ゴミの処理報告書じゃないか」とハンコを押したが、街の治安当局からは「冒険者ギルドが裏社会のシンジケートを単独で壊滅させた」と震え上がられる結果となった。




