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転生病を患った王子ですが、帰りたい  作者: 内向ひとり
第三章 南方戦争編
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翻弄するは(1/2)


 俺の腕を見た令嬢は、なぜか上機嫌に唇をゆるめた。


「あら。よく見れば貴方(あなた)も怪我しているのですね。治してさしあげましょう」


「何で嬉しそうなんだよ。あと分かってると思うけど、ここは全く安全じゃないからな」


 エウラリア令嬢は、俺の腕に纏わりついていた黙獣を、羽虫でも払うみたいに手で追いやる。


「先に心配が出てくるなんて、優しい王子様ですこと」


 白い指先が傷口の上をなぞる。

 空気に触れて浮き彫りになった痛みだけが、音もなく引いていった。癒えているというより、感覚ごと薄められていくようで気味が悪い。誓神力(せいしんりょく)を流し込まれている――しかも、かなり無遠慮に。


「ご安心を。(わたくし)も白誓院の人間ですから心得ております。それに、黙獣被害(・・・・)黙性汚染(・・・・)が出た場所へ入る理由なら、いくらでも立ちますわ」


「……建前は分かる。でも、エウラリア令嬢が来るのはおかしい。人質の身だろ」


「許可証をお見せしましょうか? 沢山の方をお救いしたのに、冷たい言い方をされるのは悲しいです」


(笑いながら言うセリフじゃないだろ)


 そう思っている間に、腕の裂傷はきれいに塞がっていた。


「燃やす予定だった荷を戻せ! まだ持ち出せる!」


 飛んだ怒号に意識を引き戻される。

 さっきまで重傷者を乗せるはずだった荷車へ、兵たちが木箱を乱暴に放り込んでいた。車板にはまだ黒ずんだ血がこびりついている。火をかける寸前だった荷の山からも、別の兵が必死の形相で物資を引きずり出していた。


「オル坊とエウラ嬢。セオ坊から離れないように」


 エリック師が、ため息混じりに短く吐き捨てた。


「どこ行くんですか?」


 エリック師はセオの肩を一度だけ叩くと、質問に答えることなく背を向けて拠点南へと歩き出す。


 セオも何かを感じたのか、盾を構え直して俺たちの前へ出る。


「もう悠長にはしていられなさそうです」


「まあ。でしたら準備でき次第退避した方が良さそうですね」


「……何してんの」


 エウラリア令嬢は退避を始めるのかと思いきや、治ったばかりの俺の腕へと、何かの布切れと共に包帯を巻き付ける。


「先ほど見せた力は、全快させるものではないのです。第一王子の御身ですので万全を期しておきたくて」


「過剰な気がするけど……ありがとう。礼だけ言っとく」


 その言葉にエウラリア令嬢は満足そうな笑みを見せる。

 その傍で、ようやく撤退が始まっていた。

 (なら)された東門からオーレシア友軍が優先されて出ていく。


「殿下。我々も続きます」


 門を出て少し進んだところで、拠点内から再度警鐘が響く。


「南西より前線、北東に向けて後退! 撤退急げ!!」


 足を速めながら南の森へ目をやる。木々のあいだから、敵を背負うようにして駆け上がってくる味方の列が見えた。


「まずい、拠点側に押し込まれてる……!」


 反射的に退路を振り返る。だが山道はすでに人で詰まり、荷車の車輪が石を噛んでは止まるを繰り返していた。怒鳴り声と悲鳴が重なり、このままでは雪崩みたいに呑まれる。


「仕方ありませんね……奥の手ですが、オルセオン王子殿下。今だけ白誓院の一員に加わる気はありませんか?」


「は?」


「恩の売り時と察してくださいませ。我々は中立です。だからこそ、今この場では見逃される」


 そこで彼女は、少しのためらいを見せて続けた。


「……本当は皆さまをお連れしたいところですが、お救いできるのは、今は殿下お一人だけです」


 穏やかな声だった。だからこそ、選ばれなかった側がどうなるのかまで、はっきり見えた。


「殿下。断る理由も一刻の猶予もありません」


「……分かった、よろしく頼む。ただ一言だけ。

 セオ、北の山中にバラけて逃げた方が生存率が高い。荷は諦めることも含めてみんなに知らせてくれ」


 ばら撒いた《帰標(きひょう)》の結果だけを伝える。

 少しでも被害が減ることを期待して。


「分かりました。安全が確保できたら合流しましょう」


「ああ、セオも気をつけて!」


「行きます! こちらへ!」


 南へ向かって走り出す。途中、敵兵とすれ違うも一瞥(いちべつ)されるだけで事なきを得る。

 しばらく走って敵影がまばらになった頃、俺は息を整えながら口を開いた。


「――エウラリア令嬢、色々と疑って悪かった。言動からは、恩を売る機会を伺ってただけとは思えなくて……」


 彼女はくすりと笑った。


「ふふ。殿下は、最後まできちんと疑ってくださいましたね」


 すぐ横にいた信徒が、一歩だけ前へ出る。


「ここから先の方がずっと大事ですのにね」


 その言い方でようやく気づく。

 助かったのではない。連れ出されたのだと。


 反射的に距離を取ろうとしたが、遅かった。

 視界がぐらりと傾き、瞼が急に重くなる。踏み出した足に力が入らず、膝が折れた。


「っ、おま……」


 霞む視界の向こうで、彼女の微笑む口元がはっきりと見えた。


「お休みなさい、王子殿下。次目覚めた時はもっと楽しいことが待ってますよ」


 直前まで書いているくらいにはストックがありません(^.^)

 更新飛んだらごめんなさい!

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