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転生病を患った王子ですが、帰りたい  作者: 内向ひとり
第三章 南方戦争編
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戦場の聖女(1/3)


 エリソン王夫妻との別れを終えた俺たちは、物資と共にそのまま南方の補給拠点へ向かった。



 王都を出て南へ進むにつれ、街道は目に見えて荒れていく。王都近くでは運ばれていく物は清潔だったのに、ここではもう、濃い臭いばかりを放っている。

 すり潰した薬草、獣の脂、生臭い水、血や汗を吸った布。

 それらを早く新しい物へ入れ替えなければと、嫌でも思わされた。


 南方戦線補給監督。

 そして、慰撫(いぶ)使節。


 ……大仰(おおぎょう)な肩書きなど腹の足しにもならない。

 物資を送り届けて鼓舞して終わり。そんな簡単な仕事であるはずがなかった。

 どの地点であっても突きつけられるのは泥臭い現実だ。


「依頼した薬包が二箱足りないぞ!?」「こっちは馬糧(ばりょう)が入ってない……!」


「帳簿上はそれで全てだ。次回の補給まで何とかするしかない」


「この消費速度で持つわけないだろ!」


 倉庫前では怒号が飛び交い、積み上げられた木箱の山を前に、誰も彼もが足りないものを叫んでいる。



 足りていないのは分かっている。それでも、全体で戦線を維持するためには物資の偏りが必要になる。

 死守すべき瞬間を耐えられるように流す。次の瞬間には、戦線が動き、補給すべき箇所も変わる。

 物が足りないだけで、人は死ぬ。戦って倒れるより目立たない分、見過ごされやすい。でも、その裏には補給の遅滞や采配の誤りがある。俺もまた、その責任と無縁ではいられなかった。


 それが補給拠点を数箇所回って知った現実だ。



 こんな苛烈な調整を、あの王夫婦は続けていたのだろうか。

 俺は飛んでくる伝令通りに荷を動かすだけで、一体何の役に立っているのか。

 今この場にいるのが、これを軽くこなしていたというオルセオンだったなら、皆の負担も無くせたのだろうか。



「殿下。少し会話を聞いていて下さいませんか」



 自らの不甲斐なさに沈んでいると、不意に声をかけられた。

 振り返ると、声をかけてきた文官の後ろで、商人の一団が露骨に眉をひそめている。



徴発(ちょうはつ)された荷の支払い」

「貸し出した護衛の返却」

「避難民への格安での荷卸しの拒否」



 聞こえてくるのはどれも正当性のある要求だった。

 対応を後回しにされていた不満が爆発して、もう王子の顔を出さないと抑えが効かない。そんなところだった。

 


 俺にできたのは最後まで言い分を聞いて、今日中に確認すると文官に約束させることだけだった。

 結局は王族相手に後の利があると思わせて、猶予を売ってもらっただけだ。情けない。



「――オル坊、(こん)をつめるなよ。任務はまだ始まったばかりだ」


「それはそうなんですが……役に立ててないと居心地が悪くて」


 そんな俺を見てエリック師は軽く息を吐く。


「自省できるのはオル坊の長所だが、戦場(ここ)では動きを鈍らせる。

 考えを単純化して周りを見ろ。自ずとやるべき事は見えてくる」


「はあ」


 言われた通り、周りを見渡す。

 相変わらず物資の有無で騒いでるし、怪我人は多い。

 ……あとは、黙獣を解体したのだろう。食用に回された残骸まで転がっていた。


「王命通り、鼓舞ですかね……? すみません、よく分かりませんでした」


「ま、初めての戦場なら分からないよな。――開戦してからまだ日が浅いというのに、戦線も補給も追い込まれてる。何十年も膠着(こうちゃく)を維持してきたのに、だ。侵攻に踏み切れるだけの理由があるってことだ」


 言われてみれば確かにそうかも……だが、俺がやるべき事って何だろう。


「セオ坊。この戦況、今何をすべきだと考える?」


 荷下ろしを終えて今し方戻ってきたセオに対して、エリック師は問いかける。

 セオは少し考えるように間を取ってから、周りに聞こえないよう静かに口を開く。


「……密偵の存在を明らかにする、でしょうか」


 思わず声が漏れそうになる。スパイがいるから、戦争に踏み切ったし、戦線が押されてるってことなのか!?


「捕まえる前に、戦線が押されて補給も噛まれるだろうな。――裏を返せば、補給部隊であっても会敵の可能性が上がるってことだ。つまり……」


「今は肩の力を抜いてろ。そして、その時が来たらオレに特訓の成果を見せてみろ」


「いや、補給監督なんで戦うつもりないんですが……」


 エリック師は、俺の回答に肩をすくめて笑ってみせる。

 俺に気を遣ったのか、考えを単純化しすぎたのか。おそらく両方なのだろうが、発想の根が兵士だ。



 けれど、エリック師の言うことは(もっと)もでもある。最後まで補給監督としていられる保証なんてない。

 どちらにしても、剣を握る手まで仕事のうちに数えられている気がして、肩に余計な力が入ってしまった。



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