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転生病を患った王子ですが、帰りたい  作者: 内向ひとり
第三章 南方戦争編
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開戦


「オルセオン王子殿下、急報です! 南方国境にて、エリソン王国とポロステニア王国が交戦状態に入りました!」


 朝、訓練所へ向かう途中で、文官から突然そんな報せを受けた。


 ポロステニア王国といえば、自国・オーレシアから見てエリソンを挟んだ南の隣国だ。

 海を持つこちらと、港を持たぬエリソン。その間を流れる富と人を、昔から狙い続けてきた国でもある――と、リゼルファから聞いたことがあった。


『回廊国家たるエリソンが落ちれば、オーレシアへ繋がる陸路の首根っこを握られる』


 ……とかそんな感じだったような。

 あともう一個何かあった気がするが、それは忘れてしまった。


 城下の空気が張り詰めていたのは、やはりこれが理由だったのかと腑に落ちた。


 国境の向こうで人が死ぬ。その事実は重い。だが、まだ自分の足元までは届いておらず現実味が薄い。

 特に慌てることなく報告に来た文官を下がらせ、そのまま訓練所に足を運んだ。


 だが。


貴方(あなた)……まさか自分の名前も忘れてしまったの?」


 訓練所に駆けつけたエウラリア令嬢と会話が噛み合わず、半ば叱られる形で疑問を投げられる。

 その言葉で、エリソン王国との因果を思い出す。


 俺の名前には「エリソン=レクス」が入っている。これが意味するのは、エリソン王国の王女と我が国王陛下の間にできた子供ということ。


 つまり、この身体の母親の故郷が燃えている。

 それなのに、さっきまで他人事みたいに受け流していた自分の鈍さに、遅れて気づく。


「……エウラリア令嬢の言いたいことは理解した。だが返す言葉に変わりはない」


 急いで辻褄を合わせる。


「一国の王子が準備なしに紛争地に向かうことはない。……それに自ら動くまでもなく、王命は直ぐに下る。だからそれまでは、ここで鍛錬する」


 我ながら、よくそれらしい返しをしたものだと思う。

 やたら戦地に向かわせたがっていたエウラリア令嬢も、納得したのかひとまず口を閉じた。


 ……最近、エウラリア令嬢は暴走気味なんだよな。リゼルファがついてくれてるはずなのにどこいったんだ? 俺たちの買い出しにも、理由を告げずに途中から来なくなったし。


「オル坊、今ならすぐにでも戦地に行っていいぞ。それなりに戦えることをオレが保証する」


「いや、だから行きませんよ……」


「私も今行かれては困ります。圧倒するための手段をまだ講じられていないので」


 俺とセオは揃って反対した。


 けれど、それはただの個人の主張でしかない。出鱈目を言ったはずなのに、その日のうちに王命は本当に下ってしまった。



 オーレシアはエリソン王国への友軍派兵を決定。

 俺たちには、南方戦線における補給監督および慰撫(いぶ)使節としての派遣が命じられた。


 表向きは、友好国への支援と王族による士気鼓舞。

 実情は、各庁で押しつけ合っていた仕事の受け皿になっただけ。


「第一王子に、こんな危ない仕事を回すのっておかしくない?」


 自らの不遇に思わず、セオへ小声で零す。


「それが……“以前のオルセオン王子殿下”なら、この程度は軽く片づけてしまっていたのですよ。加えて今の殿下は、以前より現場に近いと評判まで上がってしまっていて……」



 なんともまあ便利な王子様だ。

 書類仕事が億劫だなんて言っていられない。内勤に逃げ込む算段まで、真面目に考えた方がいいのかもしれない。



【2026/03/14】・王命を修正

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