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転生病を患った王子ですが、帰りたい  作者: 内向ひとり
第三章 南方戦争編
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先送りの課題


「――それで、エウラリアご令嬢はどうして私のところに?」


「あら。第一王子殿下のお名前でお声が掛かりましたが……ご自身がご存じないとは、それは少々惨めですね」


 妙な挑発に反論したくなったが、セオが殺気立ってしまい気もそぞろになる。


「すまないな、エウラ嬢。オルぼ……オルセオン王子殿下は諸事情で記憶喪失になってしまったんだ。外交にも影響する故、内密にそして寛容であってほしい」


 咄嗟にエリック師がフォローに回る。

 聞かされた内容にエウラリア令嬢は、相当に驚いた顔を見せる。


「ストラトクトノス卿、内部の事情を話してはなりません……」


 セオが溜息を吐きながら師匠を小声で諭す。


「……なるほど。そのような事情があったのですね。

 頼る相手もなく御国に置かれていますので、口を開く相手はおらず、情報漏洩の心配は不要です」



 ……事実だけ並べると自国が悪いことをしている感が凄い。強気のままでいてもらった方が良さそうだ。


「先の質問には私から回答します。教史庁よりエウラリアご令嬢の、身の回りを整えるための予算が本隊につけられました」


 リゼルファからの回答に謁見の記憶が蘇る。


「アレか……そういうこと……」


 王女の救出後に国王から下賜された、全庁の費用横断。それを使って面倒ごとを押し付けられた、ということだ。

 いつか何かあるとは思っていたが、こうして形になるのか。



「ところで、その黙獣を見せていただけませんか? 特殊個体は見る機会が少なく――」


 許可するよりも早く、エウラリア令嬢は近づいて、俺の胸に手を添えつつ頭上へと手を伸ばす。

 距離が近く、淡く清潔感のある香りを吸わされる。印象は良くないが、見てくれの良い顔の上目遣いに思わず息が詰まった。


「オル坊!」


 その声に我に返り、素早く一歩後退する。


 彼女の手袋がスライムに当たり、蒸発音を立てて溶けた。


「あ、危なかった! この黙獣は今のところ、私以外には触れられません」


 彼女は唖然として溶けた穴を見る。

 だが、その驚きは長く続かなかった。視線がスライムと俺の間を一度だけ往復し、確信めいた気配を宿す。

 そして何かを思い返した後、口を開く。


「少し……異国の地で気が高揚してしまったようですね。礼を欠き、申し訳ございません。

 その黙獣の確認も済んだので満足しました。

 (わたくし)は部屋に戻りますが、何かあればお呼びつけください」


「お部屋にご案内します。――殿下、私はご令嬢に付きますので」


「あ、あぁ頼む」



 リゼルファとエウラリア令嬢の背を見送る。

 結局何しに来たんだ? 目的は挨拶だけだったのか。

 でも、リゼルファの彼女を見る目が厳しい気がした。



「……"失礼"な令孫(れいそん)でしたね」


 二人の背が見えなくなってからセオがぽつりと呟いた。


「ま、そう言ってやるな。単身で乗り込んだ異国の地に、年齢が近そうな奴らがいて気が緩んだんだろうよ。オレからすれば貴族、王族との会話は仕来(しきた)りが多くて、あれくらい分かりやすい方がいい」


「貴方も貴族ですよ」


「はは、坊ちゃんたちの師匠でいるのも大変だ。師匠らしくオル坊の課題を一つ追加してやろう」



 ……言われなくても分かるし、言って欲しくない。



「女性への慣れが必要だな」



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