新たな出会い(2/2)
セオとエリック師の戦いの様子を眺める。
セオが戦うのは黙獣相手ばかりで、対人は見たことがなかった。
そして今までは受けが主の戦い方だったのだな、と理解できた。
振り切られる木剣は空気を斬り、鋭音を奏でる。
二人の剣先から風が吹いているかのように、俺の肌が錯覚していた。
「どうした、こんなもんかセオ坊!? 黙獣ばっか相手してて戦い方忘れたか!?」
「クッ……まだやれます!」
型と随所で破られる型の応酬は、演舞を彷彿とさせる。
「緊張感が足りてないんじゃないか? 祝福使ってこい!」
その挑発に合わせてセオの身体を青い光が奔る。
だが――。
「良いのかその腕、もらうぞ!」
隙があったのだろう、エリック師はセオの左腕に向かって剣を振り上げる。
腕を叩き斬った。
そう思った瞬間、セオの腕から何か割れる音が響いて、痛みなどないようにセオの剣が振り下ろされる。
「へぇ……!」
エリック師は仰け反りながら、セオの足を蹴る。
すると、俺がやられたみたいに、セオの体幹が強制的に崩れて剣の軌道がズレる。
軌道が変えられた剣はエリック師の頭上を通り過ぎる。
エリック師は片手を地につけ後方へと回転し、距離を取るのだった。
「新しい祝福か、なるほど……んーだが、結局今の使い方なら捨て身で先手切るにしかならなくて、圧倒するには足りないな」
「仰る通りです、エリック師」
戦っていた筈なのに、木剣を下ろして会話し始めた。
もう力量は量り終わったのだろうか。
戦う二人を見て、俺はまだまだ遠く及ばないと認識を改めた。
褒められて、無意識に自分の評価を上げてしまっていたようだ。
話し込む二人を見て、俺も先ほどエリック師から指導された内容を振り返ろうと、地べたに座る
爽やかな風が訓練所を吹き抜け、心地よい日差しが降り注ぐ。
こんな世界であっても、穏やかな時間はあるんだな。
そう思った。
物思いにふけそうになった俺の手を、突如にゅるんとした感覚が襲った。
「うわっ!? なんだ!??」
俺の手を粘つく何かが這い回っていた。
「どうした!?」
エリック師とセオが慌てて駆け寄ってくる。
「あ、すみません。なんか手にまとわりついてて……」
手を差し出した瞬間、エリック師の木剣が手のひら表面を浚い、粘つく何かをきれいに地にはたき落とした。
「殿下、手は大丈夫ですか!?」
「え、いやなんとも……」
剣を振ってできた血豆はあれど、特に変わったところは何もない。
「運が良かったな、オル坊。コイツは黙獣――何でも溶かす危ない奴だ」
「えっ!? はあっ!?」
変わりはないのに再度手のひらを見てしまう。
「こんなところにいるのも、遭遇するのも珍しいな。……売れば金に……酒代――」
ぼそりと呟いたエリック師をセオが叱る。
「いや、駄目ですよ。いくら脅威がほぼ無いからといって城壁内に黙獣がいたことは見過ごせません。報告しなければ」
色々と突っ込みたい。
売るってなんだ。このスライムっぽいのはレアなのか?
「報告だけすりゃ足り――ッ!」
スライムとは思えない速度で動き出した黙獣を、エリック師が叩き斬る。
しかし、スライムは身体を分割して囮を斬らせ、残りの身体で俺に向かって一直線に突っ込んできた。
「殿下!」
「うわっ、ちょ、ええっ!?」
スライムは俺の身体を駆け上る。
そして、先ほどのように俺の手の中で落ち着いた。
焦って振るも全く剥がれない。
「落ち着け、大丈夫だ」
エリック師は俺が振る手を宙で掴むと、力強く眼前に固定する。
いや、取ってくれよ!
「やっぱ惜しいな。コイツは特殊個体だ。
見ろ、中に見慣れない物体が浮いている。溶かしにこないのも、分体作るのも、あの移動速度も普通じゃあり得ない」
言われて恐る恐る見ると、確かに何か浮いている。
何だか脈打っているような……。
『脳の代替』
《環式》で見ると、そんな情報が浮かんできた。
気色悪い、という感情も湧き上がってきた。
「ま、試してみるか」
そう言いながら、エリック師はスライムを摘もうと、慎重に指で触れる。
しかし、熱した鉄に水滴を落としたかのような、小さな蒸発音が手に伝わる。
「痛った。どうやらオル坊……気に入られたみたいだな。
害はないようだし、そのままにしとくか。セオ坊、報告の件だが――」
えぇ……。
えええええええええーーーー!?




