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転生病を患った王子ですが、帰りたい  作者: 内向ひとり
第三章 南方戦争編
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新たな出会い(1/2)

挿絵(By みてみん)


 木剣が交わり、乾いた音が訓練所に響き渡る。


「相手を追い込む形が思い描けてないなら、それはただの"型なし"だ!

 "型通り"斬れる形になるまで、"型を守って"耐えろ!」


「そんなこと……! 言われたって!」


 降り注ぐ太刀筋に、なんとか木剣を滑り込ませ、必死に打ち消す。


「コラ、ずっと力を込めるんじゃない! ぶつかる瞬間を意識しろ! 分かるか? こうやって――」


 俺が今まさに勢いよく振り下ろした剣に、ゆっくりと老兵が剣を合わせる。

 かと思うと、次の瞬間には俺の剣は跳ね上がられる。



「これで死ぬ」



 いつの間にか老兵は踏み込んでいて、俺を斬り伏せる型を取っていた。

 老兵の剣の腹が、俺の喉を軽く押す。


「ゴホッゴホッ!」


「おっと、悪い。いつもの癖でつい押してしまった」


「い゛え゛大丈夫でず……」


「では、簡単に評価だが――剣を握って日が浅い、が嘘のように筋がいい。

 そこのセオ坊なんか、数年やって型なしの力押しから抜け出せたくらいだ」


 筋がいいのは《環式(かんしき)》が身体の動かし方を教えてくれるからであって……ズルの結果だ。


 セオを子供扱いするこの老兵。

 名は、エリック・ストラトクトノス。

 セオの剣の師匠で、叙爵(じょしゃく)の近衛騎士だそうだ。


 俺が寝込んでる間に、セオが直談判で引っ張ってきた人だ。

 セオと同じく隙を感じさせない、いかにもな体躯な軍人だが意外とあたりは柔らかい。

 ただ……傷だらけなのもあって見た目は少々おっかない。



「エリック師、私も――」


「お前は後だ。すぐに解決する話でもないだろ」


 おずおずと問いかけたセオをあっさりと流す。


「オル坊。次は祝福、誓術なんでもありだ。全力で来い。オレも適宜使うから遠慮は不要だ」



 盤面を振り返って得た課題。

 それは、どれくらいの力なら人を無効化できるか把握すること。

 だから、戦い方を知るべく訓練をお願いした。



「緩急を意識して、追い込む形を構築しろ。ただやるだけじゃつまらんからな……。よし、オレに祝福を使わせたらオル坊の勝ちだ。さあ、いつでもかかって来い」


「……はい、お願いします!」


 ここでやらなければ、知る機会はきっと実戦で突きつけられる。

 今、躊躇を踏み越える!



(実力差は歴然。祝福が分からないからこそ、短期で決める!)



 手を前に出し、《夢縛(むばく)》で影を三つ作り出す。



 エリック師は剣先を地につけたかと思うと、転がっていた石をその先で打ち出す。

 飛んできた石が、本体である俺の脇腹――ちょっと前まで開いていた穴があった場所にぶつかり、軽い痺れを引き起こす。



 その隙に、エリック師は硬直した俺の影一体に近づき、確かめるように斬り伏せる。

 そのまま俺の影は霧のように霧散する。



 慌てて動かした影が振る剣を、エリック師は敢えて受けて、さらに斬り伏せる。



(容赦なさすぎだろ!)



 追加で影を二つ出し、盾にしながら駆け上がる。



 三方向から挟む形で、同時に影に剣を振り下ろさせる。

 防がれるのは《環式(かんしき)》で見えている。


 だから、二手(・・)打つ。


 影の剣がエリック師の剣とぶつかる直前に、影の後ろからエリック師に向かって、俺の剣を投げつける。

 鋭い風切り音を立てて、俺の影を貫き――だが剣はエリック師に届く前に軽々と掴まれる。

 そして二振りとなった剣で、両脇の影は霧散させられる。



 ここだ!


 一瞬で間合いまで踏み込む。

 勢いで、目尻から垂れる血が後方へと引き伸ばされる。



 エリック師の振り抜いた腕はまだ戻らない。


 俺の踏み込んだ左脚が地面表層をめくる。勢いを殺された左脚の衝撃が背筋に伝わり、身体が捻れ、右手拳をさらに加速させる。



 まだエリック師は動かない。


 拳はもう胸に届かんとしている、なのにまだ動かない。


 これ、当たったら――死。



 思考が手を伸ばし切るのを躊躇う。

 すると、いつの間にかエリック師の手が現れる。


 拳の上をはたき――それだけでは説明がつかぬほどに重心が右膝から崩れ、半回転しながら仰向けに地面に叩きつけられる。


「オル坊の勝ちだが、死んだな」


 気づいた時には、俺の首筋を(ハサミ)で切るかのように、二つの剣が突き立てられていた。


「!? っ……やめ、痛い……!」


 何故か力強く木剣を押しつけてくる。


「ちゃんと説明しとこうか。理由は二つ。敗者であると自覚させること。もう一つは、痛みを伴わなければ実戦同様の心持ちにならない、そんな奴を教育するためにこれは行っている。――ちなみに最初のは本当に癖でやってしまった」



「そ、そうですか」


 首をさすりながら身を起こす。


「さて、評価だが……まずは悪い方から。替えが拳しかないなら武器を投げるな。石でも代用できる。祝福は攻撃の合間に忍ばせろ。短期決戦であっても把握される隙を作るな。それから動きに無駄が多い。――」



 正当な理詰めに身が縮こまる。目尻から垂れた血が涙のように感じる。




「全力で、と交わしたなら手を抜くな。相手の祝福を把握してない状況ならひっくり返されることは多々ある」


 言葉の猛攻は拾うのが精一杯だった。


「よし。次に良い点だが……オレに祝福を使わせたのは称賛に値する。あの直線的な攻撃の後に何かあるのでは、と思わせる迫力があった。

 二手考えて動き、その通り流れを運べたのは良かった。あれが決まっていれば、大抵の者は死に至る」



 ウンウン、とエリック師は深く頷く。


 正直なところ、こちらのモチベーション上げのためにわざと負けたんだろうと思っている。

 こちらの心を折ることなく、的確に直すべき箇所を指摘してくる。

 彼の言葉に従えば、戦いにおける課題は潰せられる。そう信じられた。


 ってか、やっぱりあの攻撃当たってたら死ぬんじゃん!

 実戦であってもどこまで力を使うかは考えないとな。



「では、次に長期戦を想定して……と言いたいところだが、まずは先ほどの反省を消化できてからだ。頭を冷やして考えてみろ。――セオ坊!」


 号令をかけられた犬のように、セオの背筋がピンと伸びた。

 その様子はどこか嬉しそうだ。



「オル坊の事情と異議申し立て理由は聞いた。だが、オレが選ばれたのは、お前の私情もあるのだろう? 話せ」



「はい、エリック師。私は殿下の盾として務めを果たすつもりでいました。しかし、それは側にいることが前提で――」


「要するに?」


「……私は殿下の元へ、直ぐにでも駆けつけるための力の振り方を覚えたい」


 エリック師は乾いた笑いを見せる。


「はは、反撃型の祝福なのに先に圧倒したいときたか。中々に難題だな」


「ええ、ですから旧知の仲である師匠に見ていただきたく」


 エリック師は嬉しいような、困ったような顔で後ろ髪を掻く。


「ま、今の力量を把握するところから始めるか。オレに成長した姿、見せてくれよ」


「胸をお借りします……!」



 エリック師から投げ渡された木剣を、セオが受け取る。

 互いに構えると、空気だけが張り詰めていった。



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