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私を見張る敵全て

リゼルファ・ナーヴ・スリュアン視点になります。


 一人、セオ隊士の奮闘を眺める。

 今頃、王子(アイツ)廃棄孔(はいきこう)を登っているだろう。間に合わなければ、帳簿は諦めるしかない。



 ……セオ隊士は相変わらず身体を張っているな。

 だが、その傷は私の治療を前提としているのが透けて見える。


 三百、四百年と寿命を削られようと構わないが、オルセオン王子殿下の――。

 いや、……私の目的を達成するまで死ぬわけにはいかない。少しは互いの身を(いたわ)ってほしいものだ。



 遠慮がないのか、悪意があるのか、兵として効率を検討した上でなのか。

 それを確認したところで、分かりあえるものなのか。



(二百年生きて、誰かと一度たりとも理解し合えたことがないな……肉親であっても)



 暗い記憶が蘇るのを、観客の歓声が防ぐ。

 殴られた痕が目立つ男が、観客に応えるように手を掲げている姿が目に入る。



「予想通りの結果だったな。あれほど単純に生きられれば、世界はまるで違って見えるだろう」



 私は影に沈むように客席から離れ、階段を降り始める。




 正直、私一人なら、こんな辻褄合わせのためだけの働きは必要ない。



 母から簒奪(・・)したこの祝福があれば。



 階層を一つ降り、闘技場の窓に嵌め込まれた鉄格子を握る。

 鉄格子は夜風にさらわれた熱を、私から遠慮なく奪っていく。

 そして、いつもの通り、吸って、止めて、吐く。

 肺の動きだけを身体に残す。


「…………そこか」


 空印筐(くういんきょう)の保管場所を把握する。

 どうやらセオ隊士と別れた場所の真反対に座しているようだ。


 足早くその場所へと辿り着く。

 そこは労働者たちを押し込めていた作りと同じで、違いとしては柵の内側に、空印筐(くういんきょう)が並べてあることだけだった。



 見張りは三人。こちらも酒に酔っていて、誅するのは容易い。



 するとどこからともなくドルバン王子の声が響いた。


『時間をかけすぎだ! 中位五群のエンテロンの入った空印筐(くういんきょう)だぞ。もう一度管理番号読み上げなければならないのか、このアホどもめ!』



「――はあ、ダルいな。上からの命令でも、コイツに従うのだけは相容れないわ」


「はは、分かる。自分じゃ何も考えられないのに、偉そうにしててな。まあ貴族を嵌めれば、次は国だ。それまで我慢しとけ」


(……なるほど。その計画、乗っ取らせて貰おう。そして、ドルバン王子はやはり"詰み"だったか。ならば、派手に状況を動かしてやるのが、彼等(・・)にとっても都合が良いだろう)



 怒鳴りながら管理番号を読み上げるドルバン王子を無視して、男の一人が柵の内側に入る。


「えーっと……ああ、あったあった。んじゃ行ってくるわー」


 空印筐(くういんきょう)を拾い上げ、そのまま側にある通路へと、ひとり消えていく。今が好機だ。

 先に取り出しておいた短刀へと《燼華(じんか)》を灯す。



「そういや聞いたか? 小競り合いしてた南のッ!!」



 私の投擲した短刀が男たちの背と胸に深々と刺さり、続く言葉を奪う。

 《燼華(じんか)》は男たちから気力を吸い上げ、大輪を咲かせては散るを繰り返し、派手に男たちを燃やす。


 観客の歓声が、男たちの絶叫を隠している間に、喉元へと短刀を突き立てる。

 今回は祝福と状況が噛み合ったな。次回はそう上手くいくまい。



(後は通路に消えた男だけだな。しかし、巡回も立てないこの無警戒さ――あの側近、今日でドルバン王子を見捨てるつもりだったのか)



 空印筐(くういんきょう)を回収し、戻ってきた男も仲間の元へと送ってやった。

 後はドルバン王子の児戯を終わらせるだけだ。


 舞台に続く通路に身を隠し、全てが揃うのを無心で待ち続ける。



「よし、今なら内も()も間に合うだろう」



 ここからは"賭け"になるが、きっと無視できない。

 王子(アイツ)に話した作戦とは少し手段が異なるが、即興ならこちらの方が勝率が上がる。



 私を見張る敵全てをここに集める。



深階(ディープ)黙誓術(スペル)・《脅威域(エリアスレット)》」



 術の発動と共に、黙性汚染が闘技場全体を包む。



 なんてことはない。

 これはただ、この場所は危険だと感じるよう仕向けるだけの術だ。



 温室育ちには"少々"刺激が強いかもな。




 次回、主人公・オルセオン目線に戻ります。

 リゼルファの思惑通りに事が運ぶのか、更新をお待ちください!

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