戦場ではない戦い(2/3)
黙獣は炎から逃れようと暴れている。
その黙獣の後ろから、中心人物が剣を振り下ろす。
瞬間、その肉体から発揮するのは難しいだろうと思える剣速を見せる。
祝福の加護を得た剣は、黙獣の身体を打ち付ける。
何度も、何度も、何度も……。
黙獣は猛攻に耐えられず、ドサリと地へと伏した。
黙獣を焼く炎だけが揺らめき、ほかはもう動かなくなっていた。
我々の勝利である。
「オラアアアアアア! やってやったぞ、畜生があああ!」
咆哮めいた男の勝鬨に呼応して、観客から大歓声があがる。
男は称賛を浴びながら、我々の方へと歩みを進める。
その姿に我に帰り、肩で息をして精一杯だったと嘘を体現する。
「無事だったかよ」
短い問いと共に、手が差し伸べられる。
「あ、ああ……お陰様でな」
手を握り立ち上げられると、周りから一層増した拍手が落ちる。
……この男、期待以上ではあるが、何を考えているのか分からない。
辛勝を演じれば、自分でもできると錯覚して次回から動くことを計算していたが、それが早すぎる。
『あ〜私の予想を大幅に上回る結果になってしまった……今回の賭けは勝者が多かっただろう。
だが、次は一段締めよう。中位五群だ。準備が整うまでの間に賭けを終わらせておけ』
来た。黙獣の投入口を割り、押さえれば、次の戦いは別として以降は戦う必要がない。
リゼルファ隊士の動きに期待して待つしかない。
次の戦いでは、私は負傷を理由に後援に徹する。
彼らに勝てとは言ったが、勝つことは期待していない。要は、一番時間がかかる手段になりさえすれば良いのだ。
が、予測不能な行動は理解しなければ命を拾うことはできない。
「次回での勝利を依頼していたはずだが?」
今も声援に応えるように、手を高く突き出している男へと、今回の真意を問いかける。
本当に無理やり連れて来られたのか疑いたくなる。
「ん? ああ、そりゃお前あんな漢見せられたら黙ってるだけなんて、みっともないからな!」
なるほど。
今後は個人の性格を、計算に入れる必要があると理解した。
他二人も声援に後押しされ、集まってきた。
「よし、お前ら! 次も楽々勝ってここからオサラバしようぜ! ただ、俺はさっきので手が震えて全力出せるのはあと一回くらいだ」
そう言って震える両手を掲げる。
「で、だ。 お前は金属操作、お前は土操作。ヒョロガリは重心操作、そんな感じの祝福だよな? 土壁作って、その内側から武器手繰り寄せて投げてチマチマ削る。そんな戦法がいいと思うんだが、どうだ? ヒョロガリは……笑いでも取っとけ」
遅れて来た二人は顔を見合わせる。
「戦い方はそれでいいけど、誓術の件といい、何で祝福まで知ってんだよ」
「失職したからバラすが……便利な奴を使えたら、その分俺が楽になるだろ? だから普段から血眼で見てんのさ。そういやアンタも微妙に祝福使ってただろ? 防御系か」
……驚いた。私のことまで見抜くとは。
彼を王国騎士団に推薦しても良いかもしれない。
「そう睨むなって! ともかくまずは土壁作ってくれ」
自白によって微妙になった空気など知る由もなく、ドルバン王子が休憩の終わりを告げる。
『準備が整ったようだ。賭けは締め切るが、遅れた間抜けはいないか? 次の戦いでは新しい挑戦者の顔を拝めるといいな』
我々の入場位置の向かい側にあった鉄格子から、空印筐が投げ込まれる。
リゼルファ隊士が見てくれていることを願う。
『それでは第二回戦開始だ! 存分に足掻いてくれたまえ!』
その掛け声に合わせて、空印筐に矢が射られる。
割れた空印筐は黒い煙を吐き、そこから浮かぶように現れたのは――人間の皮で作られたかのような大きな球体だった。




