地下の団結(1/2)
ここから数話、セオ・ノエルド視点になります。
次切り替わる際は、リゼルファ視点になります。
殿下たちと別れたあと、息を殺して壁際の陰に身を滑り込ませた。
石の冷たさが背に伝わる。目立たない場所だが、見張りからは死角でもない。
これなら、最初から居るべき場所に居たと見せることができるだろう。
滑り込んだ柵の内側は泥と汗、乾いた血の臭いが溢れ、皆俯いている。
方や外側では、酒を手に見せつけるように談笑が繰り広げられている。
線を引くためだけに据えられた簡素な柵が、こちらと向こうを、人とそれ以外のものに分けて刷り込んでくる。
乗り越えるのはたやすいはずなのに、笑い声がひとつ跳ねるだけで、足を上げる気がすっと萎える。
誰かが咳き込むたび、喉の奥で血の絡む、引っかかる音がする。
生の証拠と呼べるものがあるとすれば、それくらいだった。
数が一人増えたところで、それは変わらない。
(今は目立つのは避け、陰に徹する……壇上に上がるまでの辛抱だ)
平静を保とうと、拳をギュッと固く握りしめる。
だが、力が強すぎたようで、手に熱がこもっていく。
――冷静に。
殿下に言われた言葉を思い出して、静かに息を吐く。
(……簡単に心が乱れすぎている。師と会う機会があれば、稽古をつけてもらいたいな)
そんなことを考えていると、ふと皮膚を覆っていた冷たい不快感がほどけた。影に溶けていた輪郭が、己の体温と一緒に戻ってくる。
リゼルファ隊士にかけてもらった黙誓術の効果が切れたことを理解する。
(なんとも不思議な力ですね……ただ、黙性汚染があるなら気をつけないと)
今回の港の件で、即座に嗅ぎつけた白誓院の嗅覚には軽い恐怖を覚えた。
謂れのない罪でリゼルファ隊士が吊り上げられる、その可能性は十分にある。
殿下はそれを望んでいないはずだ。だからこそ私が盾として選ばれたのだ。
『――こちらドルバン。そろそろ出荷するぞ。黙獣との対戦は最初は五人だけだ。死んだらその分投入するから後は適当に放り込め。それと、最後の晩餐をくれてやれ』
突然、どこからかドルバン王子殿下の声が響いた。
仕組みはわからないが、金があれば誓句で実現できるのだろう。
「よかったな、お前ら。最後の餌の時間だ」
そう言って見張り等は、先ほどまで食べていた料理をこちらに投げつける。
果実酒が飛び散り、服を汚す。
腹は立つが、私一人だけ服が綺麗だったので都合が良い。
大半がその床に散らばった残飯を食べているが、諦めたのか、志があるのか微動だにしない者もいる。
「まだ寝てんのか? おーい、起きろ」
血だらけで地に伏していた男に、見張りの一人が酒を浴びせる。
「…………――ッ!? ハアハア……クソッ気失ってたのか。ってオイ、お前ら! そんなみっともない真似してんじゃねえ!」
酒をかけられた男は目覚めるや否や、残飯を食べていた労働者たちに檄を飛ばす。
怒鳴られた労働者たちは、そそくさと食べるのをやめてしまった。
……彼がここの中心人物なのだろう。
盛り上げ方が決まった。
ここでは、正しさより目立つ者が群れを動かす。




