闘技場へ(1/2)
「……この人の集まりを見るに、今日で時間切れだったようだな」
闘技場前の林の中から、飛行船から降りてくる人々の様子を遠目に伺う。
身につけている装飾の格が違う。光り方が、量が、揃い方が、まるで――。
「貴族ですね。興行を見に来た客層に見えます……」
セオが俺の感想を言葉にする。
しかし、見ているだけでは解決しない。
タイムリミットであるなら、なお行動しなければ。
「殿下。乗り込もうとしているが、まずは目標を明確にしてからだ」
リゼルファに制され、俺は背筋を正す。
「まずは物証を押さえる。ここには港から運ばれた空印筐とその帳簿が、間違いなくある。
これさえあれば逃げ道を塞げる。
その次に、日雇い労働者たちだ。
彼らの証言でドルバン王子の罪状の重さが決まる」
「では私は労働者側へ。
物証が揃うまでの間、労働者の列に混じり、口を塞がれないよう盾になります」
「よろしく頼む、セオ隊士。殿下と私で物証を押さえる。
……そして殿下。あらかじめ口にしておく」
リゼルファが俺に向き直る。
「ここでは間違いなく労働者に対する、非人道的所業を目にする。
だが、決して軽はずみな行動はしてくれるな。いいな?」
剣闘士として労働者同士で戦わされている、ということなのだろうか。
その予想に思わず肩に力が入る。
「返事は?」
「あ、はい」
全く信用していない目を向けつつ、リゼルファはどこからか空印筐を三つ取り出し砕く。
そうして筐は黒煙を立てて、布を吐き出す。
「認識阻害の誓句が刻まれた布を渡す。これを」
リゼルファから黒い布切れを受け取る。
セオはもう装備を全て外していた。そしてスカーフのように首に巻きつけると……別人になった。
銀の髪は灰色に、身体は太く。
何だか老けたように見える。
リゼルファは内務庁のシンボルが刻まれた外套だけを外して、同じく首に巻く。
尖っていた耳の線が丸くなり、濃い肌の色味が落ち着いていく。
「殿下も早く」
不思議な光景に手が止まっていた。
同じく外套だけを外し、急いでスカーフを首に巻く。
前と同じく感覚としては何も変わらない。
「まずは労働者のところまでセオ隊士を送り届ける。そこまでは行動を共にする」
合図のように、リゼルファが短く息を吐く。
「浅層黙誓術・《群隠密》」
禍祈廊で感じたような粘ついた軽い不快感が肌を覆う。
リゼルファの黙誓術と共に、俺たちの輪郭が揺らぎ、暗がりに溶けていった。




