鍵の行方(3/3)
「内務庁領務監督局より告げる。これより、祈祷に際し班編成を行う。
混乱防止のため誘導は班単位とし、収容超過につき別会場へ分散移送する。
只今より私的な移動を禁ずる。従わぬ者には拘束の上――」
その言葉の切れ目ごとに、群衆がざわめきの層を増す。
分散、拘束。その単語だけで、恐怖を早足に伝染させる。
俺はその宣言に合わせて、素早く《帰標》を発動する。
意識の端に、薄い線がいくつも走る。
増殖したそれは俺の意識の大半を占め、自然と呼吸を浅くさせる。
そうして現れた群衆の安全な導線は、避難所の内部で帰結する。
だが三本だけ、異物のように遠くへ伸びていく導線がある。
俺はその方角をなぞり、地図の上に直線を書き加える。
手が冷や汗で震え、鉛筆の芯が紙を噛む。
そして意識を持っていかれる前に、《帰標》を消す。
出来上がった線は、僅かに歪んでいた。
「……これでドルバン王子の後を追える!」
上手くいった。
安堵と共に、思わず声が漏れ出る。
考えたのはこうだ。
俺の《帰標》は「帰るべき場所」と「安全な導線」を示す。
ならば、紛れ込んだ新王国の人間にとっての“安全”を引きずり出せばいい。
そうすれば、自ずと味方の場所まで方角が伸びるって寸法だ。
「前方、顔に大きな傷の男。隣の背の高い女。後方、輪になって座っている者のうちの老人。
あれがネレドリア新王国の関係者だ。気取られぬよう班を割り、分断せよ」
「はっ!」
短い応答と共に兵たちが人波の中へと消える。
「この直線上には……街がありますね」
セオが地図を覗き込みながら言う。
下っ端は回収地点までしか知らされていない可能性が高い。
ならば、その直線上にいる回収役をなぞり、線を更新する――リゼルファにそう修正された案は正しかったようだ。
避難所を出て、《帰標》を広範囲にばら撒きながら反応を拾う。
そうして次の回収役との距離を詰め、何度か導線を繋ぎ直す。
地味だが、その線は確実に俺たちをドルバン王子の元へ連れていった。
そうして日が沈みかけた頃――薄闇に紛れて、小型の飛行船がいくつも、低く滑るように現れた。
その進路が、地図に引いた直線と重なる。
直線の先、丘陵の陰に、巨大な闘技場が輪郭を浮かせていた。




