番外編② 作法
港に着くにはまだまだ時間がかかる。
馬車の中は、言い訳の利く雑談と、無知の披露にちょうどいい。
「――って感じで、丸四日不眠不休で特訓してた。
セオが来なかったら、たぶん終わってない」
「……新兵の訓練ですね。
脅し文句としては聞きますが、文字通り実践した例は初めてです」
この世界でも異端の訓練方法じゃねーか!
俺はリゼルファにキッと視線を送る。
リゼルファはこちらを一瞥するでもなく、窓の外を見つめて無言を貫く。
「あの雷の誓術痛かったなー。何回打ち込まれたんだっけなー」
わざとらしく嫌味をぶつけると、
ようやくリゼルファはため息を吐いて、反応を見せる。
「"言葉多ければ、理は滑る"」
「? どういうこと?」
「殿下、ことわざです。
発言が理を意図しない方向へ導く、という意味です」
セオが言葉を選ぶように付け加える。
「王子ならなお発言に気をつけねばな。口重いくらいがちょうどいい」
暗に黙れと言われているのが分かって、腹の虫が疼く。
「はあ……由来となった昔話をしてやろう」
リゼルファは俺の心のうちを読むのが上手いようだ。
「昔、四六時中しゃべる王がいた。
家臣は王の言葉を一字一句、律として扱った。
結果、国は揺れた。政策は乱れ、命令は互いに食い合い、誰も止められなくなった」
「最後に王が口にした愚痴が、誓術になって国を焼いた。
……これをどう受け取るかは任せる」
「大袈裟では? 定型文じゃないと誓術って発動しないんじゃないの?」
「構文を知っていればそれに縛られるな。
神への誓いは形が崩れても届く可能性がある。
――教育を施されなかった黙精霊が誓術を放った例もある」
「はい、私が悪かったです。
申し訳ございませんが、構文を教えていただけないでしょうか」
「同じ口を開くなら、有益な方がいいだろう。
ついでに王族らしい口調も教えてやろう」
馬車はまだまだ揺れる。
【2026/02/18】タイトル変更




