番外編 ハイドルの秘書
投稿するエピローグを最初に間違えてしまいました。
混乱させてしまい申し訳ございません。
私の名前はエルルカ。上位魔族ハイドル様の秘書を務めている。
……と聞けば、立派で名誉ある仕事に思えるかもしれない。だが実態は違う。完全に面倒ごとだ。
なぜなら、ハイドル様はコネで上位魔族になった小心者で、自分で判断できない。
しかも自己肯定感が低すぎる。毎日「俺は上位魔族に向いてないんじゃないか?」と落ち込んでくる。
でも――顔はいい。
赤髪、筋肉質、かっこいいのに少し幼さが残る。私の性癖にぶっ刺さる完璧なビジュアル。
そのうえ極度のブラコン。兄上に依存してる姿なんて、もう尊すぎて妄想がはかどる。
……そう、結局私は得をしているのかもしれない。
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「この書類だが、どうすればいいんだ?」
朝から上司のハイドル様が眉をひそめながら、書類を持ってくる。
……いや、それ昨日8回くらい教えたやつですよね?
見た目は完璧、赤髪で筋肉質で絵画みたいに美しい。
でも中身はというと、仕事の覚えがちょっと悪い。
「それは普通に、ここの数字をこっちに記入してください」
つい丁寧に説明してしまう。
ほんとなら「使えない上司!」ってイライラする場面なのに、なんでだろう。
可愛いが勝つのはなぜ?この感情、秘書としてアウトなのでは……。
そういえば、もうすぐ女悪魔同士の同人誌即売会がある。
もし上司をモデルに登場させたら……いや、さすがにダメだよな。
でも……描きてぇなぁ。
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「ヒック、ううっく……」
机に顔を押しつけて泣いているのは、いつものハイドル様。自己嫌悪タイムが始まったらしい。
「どうしましたか?ハイドル様」
一応声をかけるが、返ってきたのは弱々しい声。
「お前には関係ない。仕事に戻れ」
……可愛い。
悪魔であろうと、ここまで拗ねた生き方するのはなかなかいない。
私は仕方なく書類に目を戻す。
「わかりました。何かございましたらお呼びください」
そう言って席を立とうとした瞬間――
「……」
視線が突き刺さる。めっちゃ見てる。
「何かございますか?」
「いや……ただ見てただけだ。気にするな」
出た、いつものやつ。
口では「ほっとけ」と言いつつ、本当に無視するとしっかり引き止めてくる。
正直、めんどくさい。
――そして2時間後。
「つまり、今の状態ではお兄様の役に立っていないと考えてるのですね」
ハイドル様は静かにうなずいた。
……そう、悩みを話してくれるまでに最低2時間はかかるのだ。
ひどい時には、5時間かかることもある
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流石に、こんな仕事、愛がなければできない。
私はいつもベッドにハイドル様の顔をプリントして寝ている。もちろん許可は取っているので、そこら辺のストーカーと一緒にしないで欲しい。私は正規の手段を踏んでいるのだ。
思い返せば――あれが私とハイドル様の最初の会話だった。
ある日、目を覚ましたハイドル様が屋敷の外に出ると、私が立っていた。
「……写真撮っていいですか?」
彼は震えながら問い返す。
「どうやってここまで来た?」
私は歩いてみせて答える。
「こんなふうに、右足左足を交互に出して……」
「違う! どうやって警備をすり抜けたのかと聞いている!」
私は小首を傾げながら返した。
「そんなの気になります?もうこの世にいない悪魔たちのことなんて」
その瞬間、ハイドル様は足を震わせて、がくりと膝をついた。
「大丈夫ですか!? ハイドル様!」
私は駆け寄りつつ、もう一度たずねる。
「それはそうと、写真撮っていいですか?」
沈黙。
「……写真撮っていいですか?」
「……いや」
「写真!写真!写真!写真!写真!写真!写真!写真!写真!写真!」
ああ、懐かしい。
これが私とハイドル様の最初の会話だった