増え続ける仕事
前回のあらすじ
話は長くなるが――結論だけ言おう。
レックスの幼馴染として現れ、やたらイラつくムーブを連発してきた“モニモニ”。
あいつは、ただのぶりっ子じゃない。
モニモニの姿が、ぐにゃりと歪んでいく。
現れたのは、白と黒のコントラストが強い服を着た――身長150センチほどの美少女。
顔立ちは、学校の男子なら誰もが喜びそうなタイプ。
「ばれてしまった以上、仕方ありません。私は匠誠、あなたに仕事を与えに来ました」
……はい、出ました。
正直ちょっと期待してたんだよ。姿が変わったとき、俺好みのイケメンが現れるんじゃないかって。
でも違った。ただの「顔がいいだけの女」だった。
このパターン、もう飽きるほど知ってる。
転生してから何度も繰り返されてきた「美少女登場→依頼を押しつける→俺が完璧にこなす→なぜかヒロイン枠に」っていうテンプレ展開だろ。
「あなたへの仕事はたったひとつ。魔王軍が呼び出した、別世界の住人が強すぎるのです。あなたに倒して欲しい」
(ほら来た。こういうのな。)
……転生者が男かどうか、聞きたいけど――レックスの前で狼狽えるのはクールキャラ的に避けたい。
だから俺はクールに断った。
「すまない。他を当たってくれ。俺にもやることがある」
すると彼女は、にやりと笑った。
「あなたの欲しいもの、知っています。成功すれば――私の弟に会わせてあげます」
……弟?
「やります!!」
ーーーー
レックスが慌てて声を上げた。
「どういうことだよ!?モニモニは無事なのか?」
しかし、女はまったく動じず、店員に向かってのんきに注文を始める。
「春のうららか、オレンジジュース。パラソルをつけてください」
……お金を払うのは俺になるんだが。図々しいところは外面が変わっても同じらしい。
女はレックスに向き直り、さらっと爆弾を落とす。
「安心してください。あなたの幼なじみには許可を取って変身しました。あと、ついでに言っておくと、そのモニモニ、いま彼氏が3人いますよ」
その瞬間、レックスの金髪が数本ぶちっと抜け落ち、黒目が一瞬で真っ白に変わった。
「えっ、え……」と口を動かしたまま、レックスはその場で意識を失う。
――やっぱり、幼なじみ補正が強すぎたんだろうな。ショックがでかすぎたに違いない。
だが、俺からすれば別の意味で朗報だった。
(つまり……レックスがフリーである可能性がグンと上がったってことじゃないか!!)
やばい、この女……最高かもしれない。
俺は疑問を口にする。
「でもなんで、わざわざ幼なじみのふりして俺に近づいたんだ?」
女はオレンジジュースをストローでくるくるかき混ぜながら答えた。
「あなたが気づくかどうか、テストの意味もあります。それと……ここで無料でご飯が食べられると思ったので。私、給料低いんですよ」
……なるほど、ろくでもない部分は演技じゃなくて本物か。
ーーーー
女はストローでジュースをくるくるかき回しながら説明を始めた。
「今、魔王軍は転生者の男たちを大量に雇っています。そして彼らは“女性を一瞬で籠絡するスキル”を持っているから、女の戦士では歯が立たないんです。だから——男だけで討伐してください」
その言葉を聞いた瞬間、俺の体中に鳥肌が立った。
(やっぱり……人間同士で戦うことには慣れてないんだ。勇者でも。これは無理強いするべきじゃ……)
「さっきの話、やっぱり無かったことに」
「最高じゃないか!!」
俺は全力でOKを出していた。
「ずっと心の奥で思ってたんだよ!合法的に“男だけのパーティ”を作って冒険したいって! さらに転生者は全員男なんだろ!?」
「まぁ、報告されている限りはそうですね」
「つまり、この世界に来て調子に乗っている転生者たちを——俺好みに教育できるってことだろ!? なんという神の采配!ぜひ、ぜひあなた様を信仰させていただきます。……ところで、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
女はグラスのオレンジジュースを飲み干してから答えた。
「ミニステラです。……とりあえず、契約成立ということで」
そしてさらっと続ける。
「そうそう、レックス君なんですが——弟に会えなくて寂しがっているようです。“弟探しの旅”だと言えば、案外すんなりついてくるんじゃないですか?」
女神ミニステラは、俺に最高の啓示を残して去っていった。