この女腹立つ
ルーズリールは結局、この村の行方不明事件とは無関係だった。
俺に残ったのは――無駄な苦労と、口うるさいトカゲおばさん。
だが今、最大の問題は別にある。
それはレックスの幼馴染として登場した“後付け感MAXの女”。
俺はどうしても、この不自然な存在を潰さなければならない。
俺はさっき、レックスをお金で仲間に引き込もうとしたが、あっさり断られてしまい困っていた。
「いい加減にしなさいよ。幼馴染ヒロインに勝てるはずないじゃない」
そう言ったのは――トカゲ姿なのに普通にしゃべっているルーズリールだった。
「お前、どうやってしゃべってんの?」
「簡単よ。一万ポイント使って念話スキルを手に入れたの」
……さすが200歳越えの老女、貯め込んだポイントは桁違いらしい。だが、それだけあるなら俺との戦いで役立つスキルに使った方がよかったんじゃないか?
「そうだぞ。あんなにいい子が相手じゃ、お前の勝ち目はゼロだ」
ハイドルまで身も蓋もないことを言ってくる。
「ねえ、聞いた? 私とハイドルの意見、同じだったわ」
……やはり諦めるしかないのか?
「やっぱり、これは運命なのにね」
しかし、俺の148回目の恋だ。なんとかして叶えたい――そう思っていると。
「ちょっと! あんた反応しなさいよ!」
「うるさいんだよ!! おばさん! こっちは今、真面目に“洗脳スキル”を取るかどうか悩んでんだよ!」
ーーーー
レックスと小娘が楽しそうに話している。俺は裏でその光景を見つめながら、背後から注意を受けた。
「いいか?これが最後だからな」
「そうよ、これで失敗したら諦めなさい」
……ハイドルとルーズリールにまで釘を刺される始末。だが俺は勇気を振り絞り、二人に歩み寄ろうとする。
緊張感は小学生の頃を思い出す。
――そう、好きな男子・一ノ瀬君にバレンタインのチョコをバレずに渡そうとしていた時のことだ。担任の姫元先生の字をコピーして「好きです♡」と書かれた紙と、チョコと、先生の写真を添えて渡した……あの瞬間のヒヤヒヤ感にそっくりだった。
「何度も言ってるだろ!お前が油断した時、思考を共有してくるのやめろって! あとお前、何やってんだ!? 姫元先生が可哀想だろ!」
……俺の頭に突っ込んでくるハイドルの声。
ちなみにその後、姫元先生は職員会議にかけられ、修学旅行費をこっそり盗んでいたことまでバレてしまったのが印象的だった。
「姫元先生、何やってんだよ……」
ーーーー
「やあ、二人とも楽しそうだね?」
大丈夫。ここまでは普通に会話できている。欲望を抑え、冷静でジェントルな態度を貫けば勝てるはずだ。
「そういや、俺の名前は言ってなかったな。匠誠、よろしく」
……よし、ここまで常識人だ。完璧。
正直、小娘の名前なんて興味はない。だが場を繋ぐためには聞くしかない。
「名前はキラキラパチパチモニヌカちゃんですぅ。モニモニって呼んでねーー!」
……やばい、ちょっとイラついた。落ち着け俺。こういう不思議ちゃんにも優しくできてこそ本当の男だ。
「モニモニちゃんっていうのか。よろしく」
「うわー! 本当にモニちゃんのことをモニモニって呼んだーー! 冗談だったのにーー!」
……これ、殴っても文句言われないだろ。
ちらりとハイドルたちを見ると、二人とも血管を浮かせていた。
そこへレックスが慌てて割って入る。
「すいません。慣れるとすぐ距離感を詰めちゃうやつなんで。悪気はないんです。許してやってください」
……危なかった。レックスがフォローしてくれなかったら、多分俺は殴っていた。
安心しろ。学校に通っていた頃も似たようなやつはいた。ぶりっこで、俺に愛想を振りまいてくる女。だが俺にとって――男じゃないと意味がないんだよ
ーーーー
俺はレックスと小娘をランチに誘った。村で評判のおいしいご飯屋があるらしい。レックスの案内で入店。
「スゲーー! 俺、店に入ってるーー! 何年ぶりだろ」
レックスが無邪気に喜ぶ。……そうか。家が貧しくて外食なんてできないんだな。よし、腹いっぱい食わせてやりたい。俺の母性、本日も発動。
四人席に座った。……いや、予想はしてたよ。でもやっぱりイラつくよな。この小娘、当然のようにレックスの隣に座ってんじゃねーよ! この並び、どう見ても「カップル+その友人」ポジションだろ。俺、完全に添え物じゃん。
気を取り直し、注文へ。
「俺はサンドウィッチセット(700テリー)」
「いいのか? 俺も頼んで」レックスが不安そうに聞く。
「もちろんだ」俺がうなずくと、レックスは控えめに答えた。
「じゃあ、トマトスープで(500テリー)」
――安いものを頼むとか、やっぱりいい奴だな。胸がじんわりする。
「モニちゃんは〜、ウリカメクドラゴンのピザ、春のジンジャー卵を添えて(1万3000テリー)♡」
……このメス!!!!
お前はもうちょっと空気読めや!
あとなんだよ、そのご飯、名前から味が想像できない。後で俺も食べてみよう。