そろそろ、このおばさん倒します
俺はついにルーズリールのダンジョン最下層に最短ルートで到達した。
だが、そこで目にしたのは――なぜか女装させられていたレックスだった。
俺、ずっと思ってるんだよな。
「男の娘」ってジャンルは確かにいい。可愛い男の子に女装させるのはアリだ。
でもな? 普通、男の娘が本当に映えるのは中学生くらいまでだろ。
レックスの年齢でそれをやられても……正直、ジャンル違いなんだよなぁ。
本当にありえない。
レックスはピンクのフリフリしたワンピースに赤いハイヒール、さらに金髪を隠すための茶髪ロングのウィッグまで被せられていた。
「おいババァ!! あのな、レックスはそんな女の子らしい服じゃないんだよ! 女装なんて似合うわけねぇし、俺へのご褒美考えるなら海パン一択だろ!」
「いや、そういうんじゃ」
ルーズリールがなにか誤解を解こうと口を開きかけたが、俺は止まらなかった。
「それにな、まずは服を徐々に脱がすのが魔王軍の礼儀だろ!? なんで一瞬で服を剥がして、別の服を着せるんだ! お前ほんと礼儀がなってないな! ハイドルなんか俺を捕まえた時は最高だったぞ! あいつは生暖かい目で『服を脱げ』って命令したんだ!」
ルーズリールとレックスが、ゆっくりとハイドルを振り返る。ドン引きの視線が突き刺さる。
「お、俺そんなことやってないから!! そこの変態と同列に見んな!!」
ーーーー
ルーズリールは俺の100%正しい説教をかき消すように、大声で発狂した。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
さすがの俺も少し怖くなって、冷静に声をかける。
「どうしたん? 急に発狂して。もし悩みあるなら、俺でよかったら聞くけど」
「……急に冷静なこと言うなよ! 私が頭おかしいみたいに見えるだろ!」
横でハイドルが謎の言語をブツブツ呟いていたが、俺にはさっぱりわからない。
ルーズリールは肩で息をしながら叫んだ。
「これは私の趣味じゃない! 儀式のために必要なプロセスなの!!」
――嘘くせぇ。
だいたい200歳超えたおばさんなんだぞ。人間視点ならレックスは青年でも、このおばさんから見たらまだ5歳児くらいだろ。どう考えても「自分の好みの若造を着せ替え人形にしたかった」ってのが本音に決まってる。契約前ハイドルも顔に幼さ残ってるし、そのハイドルが好きだったってことは、つまりそういうことだ。
ルーズリールは苦しい言い訳を続ける。
「邪神様は女の子が大好きでね。男を生贄にするときは、必ず女装させなきゃいけないの!」
「いやいや。女の子好きなら、わざわざ女装した男なんか渡されても困るだろ」
「そ、それは……!」
「てかそもそも、その儀式って一体なんなんだ?」
ルーズリールは急に黙り込む。
――やっぱりな。
「おい、もしかして“邪神に捧げる儀式”って以外、公式情報ほとんど知らないんじゃね?」
ルーズリールは負け惜しみを吐く。
「いるのよね!? 公式情報全部知らないだけで“にわか”扱いしてくる奴!」
「当たり前だろ。公式把握してないのに語るとか、それただのにわかだ」
ーーーー
今まで黙っていたレックスが、ようやく口を開いた。
「……俺が儀式のいけにえになるってことらしいけどさ、生贄になったらどうなんの? 俺、死ぬの?」
ああ、やっぱりいい声してる。会ったときからずっと思ってたけど、耳に心地よすぎる。どうしよう……レックスが死んだら、声だけでも保存できるスキル取るべきかな? いや待て、それって恋心が純粋に育ってる証拠なんじゃないのか?
ルーズリールは肩をすくめて、あっさりと答えた。
「知らない」
――おい。
お前、この村の男たちを連れ去ってる張本人だろ!? せめて計画に具体性を持ってから動けや。
さらにルーズリールは、か細い声で付け足す。
「なんかこう……邪神様の触手で……別空間に連れていかれるラシイ……」
最後の部分、完全に聞き取れなかったぞ! 自信なさげに濁すな!
けどもうそんなことより――
「おい、レックスを連れ去るなら、俺を連れていけ!」
ーーーー
「おい、正気か誠!! 死ぬんだぞ」
(お前が死んだら、自動的に俺も死ぬんだぞ!!!)
ハイドルの言いたいことは痛いほどわかった。
「……心配してくれてありがとう。でもな、このままレックスが生贄にされる前に、このおばさんを倒すシミュレーションをしてみたんだ。結果は――全部失敗だった。だったら俺が犠牲になるしかない!」
「誠……!」
ハイドルは声を震わせた。
俺はハイドルの心を読んでるわけじゃないけど、何を言いたいのかはわかる。
――なんだかんだ、ここまで冒険してきて、きっと俺に情が芽生えてるんだろ?
(違う違う違う!! 俺が言いたいのは「死ぬ前に使い魔契約を解除しろ」ってことだ!! このままだと俺も共倒れなんだよ! こいつ……まさかこの空気感に酔って、契約のこと忘れてないよな!?)
ーーーー
ルーズリールは俺を嘲笑いながら、祭壇の中央へと押し込んだ。
――やばい。やばいぞ俺。めっちゃ興奮してきた。
やっとだ……ついに合法的に自分の欲求を満たせる瞬間が来たんだ。
さっきこのおばさんが言ってたことが本当なら、これから俺は触手プレイを体験できる。しかも相手はただの触手じゃない。邪神という高位存在だ。支配され、蹂躙される――脳が焼き切れそうなほど興奮する。
……なんか大事なことを忘れてる気がするけど、まあいいか。ハイドルに関する何かだった気がするが、大したことじゃないだろ。
魔法陣の中心から、黒く蠢く触手が這い出し、俺の体を拘束した。
そして――そのまま口の中へと飲み込まれる。
「勇者!!」
レックスが俺の名前を叫んでくれる。……待てよ。これって脈アリってことじゃないか? やばい、ここで告白した方が良くね?
そんな俺の思考を遮るように、邪神は突然俺を吐き出した。
「……無理だ。この勇者、私以上に欲望が強い。世界平和への執念が強すぎる。私には消化できん」
おい。何言ってんだよ!!世界平和はどうでもいいから、ベットでの戦争をまず最初に考えてんだよこっちは!!
お前邪神なんだから頑張れよ!?
期待させておいて「本番NG」とか……社会では通用しても、俺の欲望には通用しねえからな!!
ついに、400PV超えました。
これからも、面白い作品が作れるように頑張ります。
あと、よくよく見てみたら初めてPTが入ってました。
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