このおばさん、ほんとは相当バカだな
前回のあらすじ
俺は前回、ほとんど何もしていない。語れることは少ない。
だが一つだけ確かなことがある。――レックスが相当めんどくさい目に遭っている。
今度こそ俺の出番だ。待ってろよレックス。
ルーズリールが祭壇の準備をしている。
「一体、儀式の正体は何なんだよ!!」
彼女は答えず、ナイフを舐めて血を滲ませながらぼそりと呟いた。
「世界征服……なんて安直かしら?」
俺は困惑して黙り込む。
(……あれ? 思った以上に食いつかない。もっと身近な目標を言ったほうがいい?)
彼女は出血した指から血を祭壇のコップに垂らしながら、わざとらしく付け足した。
「まず私の目標のために最初に潰すのは、この村からね」
「なんでこの村からなんだよ!?」
(……あ、そこで食いつく?さっきはスルーだったのに……。こいつ反応ポイントがよくわかんねぇ。それにナイフ舐めたら予想以上に血が出て痛いし!……まあ祭壇に供物っぽく見せかけたしバレてないよね。)
「……それはまだ言えないわね」
「なんで今説明できないんだ!? 本当は何か隠してるのか?」
(……うわ、しつこい! お前ぜってぇ手品とか見る時も「タネ探し勢」で全然楽しんでないタイプだろ!!)
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ルーズリールは誠とハイドルがダンジョンに入ったことに気づいたが、焦りの色はまるでなかった。
「……勘づかれたか。残念なお知らせだけど、レックス。あの勇者はこのダンジョンに入って10分後に死ぬわ」
――嘘だろ!? あの最強勇者がそんな簡単に?
……いや、こいつは勇者と一度戦って生き残った蛇女だ。何か策があるのか?
「もちろん策があるわ」
まさか俺の考えを読んでる……? いや、ただ推測しただけか? ……いやそんなことはどうでもいい。問題はその“策”だ。
「このダンジョンにはね、私の部屋に入るための二つの道があるの。で、片方に“Come On”って看板を設置しておいたのよ。勇者は間違いなくそっちに行くでしょうね。でもその先には罠があるの」
「いや作戦バカすぎるだろ!!」
素直に看板のある道に行く馬鹿がどこにいる!? ……いや、もしかしてこれが高度な心理戦? 初心者の俺には理解できない、上級者同士の恐ろしい駆け引きなのか……?
――その頃。
誠とハイドルは、誠のスキルのおかげで看板など一切関係なく、普通に正解ルートを進んでいた。
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俺の名前は誠。
このダンジョンに入ってから、特に罠らしい罠は見当たらない。……正直、少し拍子抜けだ。
だが、油断はできない。
俺のレックスが今、レックスじゃなくなろうとしているかもしれないんだ。
儀式っていうからには――魔方陣を描いて、その中心に生贄を配置して、タコ型の邪神でも呼び出して……そしてレックスのレックスを奪うに決まっている!
いや、待てよ。
(もし今突っ込んだら、もう儀式が始まっていて……レックスが触手責めで……!?)
「ハイドル、一旦30分ぐらい待ってから攻略しないか?」
「ふざけたこと言ってねーでさっさと行けよ」
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俺は迷わず「開けちゃダメ」と書かれた扉に手をかけた。
禁じられてるなら、開けるしかないだろ。
「ハイドル?もし中が……えっと、ガチでR18みたいな状況だった場合さ。俺は入っていいのか?それとも混ざるべきなのか?」
「……お前、マジで何言ってんだ?」
ハイドルは完全に無視して扉を押し開ける。
「ばか!!俺は“最初は夜景の見えるビルの屋上で”って小1の頃から計画立ててたのに!!!」
俺の幼少期からのロマンチックプランを粉々にして、ハイドルは勝手に中へ。
そして――
そこにいたのは、女装させられたレックスだった。
……センスがねぇ。
レックスはそういう調理法じゃないんだよ。
これだから初心者は困る。何でもかんでも「男キャラを可愛くしよう」としたら女装させればいいと思いやがって……現代オタク文化の悪い癖、ここに極まれり。
「……お前、言ったよな。そのカスみたいな脳内独白、口に出すなって」
ハイドルが冷ややかに俺を睨む。