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「甘味神殿と溶けた記憶」

通路の奥へと進む一行の前に、突如として現れたのは――半ば崩れかけた巨大な扉だった。

 

その扉は石と琥珀のような材質で構成されており、表面には古代文字と曲線的な飾りがびっしりと彫られていた。周囲の壁にはかすかに金色の光が走り、どこか甘く、ほのかに懐かしい香りが漂ってくる。


「これ……神殿の主扉?」


セレナが目を細めて問いかけた。


「ええ。ここが最深部で間違いありません」


ギャリソンが扉の周囲を調べると、小さな窪みがいくつも並んでいるのに気づく。まるで、猫の肉球でも押し込めそうなサイズだった。


「……にゃっ?」

(これ、押せってことかにゃ?)


猫たちがそろりそろりと近づいて、ひとつ、またひとつと窪みに前足を置いていく。


ポフッ。


石が小さく沈み、ほんのりと金色の光がその部分から滲み出た。


「……反応してる! 猫たちが鍵なの!?」


ミーナがぱぁっと顔を輝かせた。


「あと、あと三つだよ! おにぃ、こっち、猫ちゃん誘導して!」


(わかったにゃ! そっち押すにゃ!)

(にゃー、にゃー……)


猫たちはミーナの手拍子に合わせて前足で次々と石を押していく。


「がんばれー、がんばれー! うちの猫ちゃん、超おりこうさんっ!」


ミーナは足元で懸命に動く猫たちを、身を屈めて両手をぱたぱた振りながら応援した。

金髪がふわふわと揺れ、頬は真っ赤。小さなスコップを背負いながら、まるでお祭りの子どものように跳ね回る。


その姿を見て、ルークはふっと頬を緩めた。


「……ほんと天使だよな、ミーナは」


最後のひとつを猫が押し込んだ瞬間――


ゴウン……


重々しい音とともに、神殿の扉が左右に開いていく。

中からは冷たい空気と、やわらかな香りが流れ出てきた。


「開いた……猫たちのおかげだな」


「ねー、えらいえらい、今日の夕ごはんはちゅーる祭りにしようねっ♪」

 ※ちゅーる・・・以前スイーツを色々作っている途中で猫まっしぐらなスイーツが出来てしまった。それをルークがチュールみたいだな。と、言ったのでミーナがちゅーると名付けたのであった。


(にゃっ、ほんとかにゃ!?)

(にゃにゃにゃーん!)


猫たちはミーナの足元を走り回り、ぴょんと彼女の肩に飛び乗った。

ミーナはきゃっ、と小さく笑いながら、猫たちを抱きしめるようにして進んでいく。


「さあ、行こう! あま~いスイーツが、きっと待ってるよっ!」


「待ってるって……どこにそんな確信があるんだよ……」


そう呟きながらも、ルークは妹の背中を見守りながら歩き出す。


神殿の中は広々としていた。

天井はドーム状で、中心には大きな蜂蜜のようなガラスの柱が立っていた。周囲の壁面には、果実や穀物、蜂、焼き菓子のような装飾が刻まれ、まるで“お菓子の神殿”と呼ぶにふさわしい雰囲気を放っている。


「これは……まさか……」


セレナが柱に近づいて、そっと触れた。柱の内部に、虹色の光が漂う。


「魔力で保存された……記憶? いえ、“香り”の記録……?」


ギャリソンが一歩引いて、敬意を込めた声で言った。


「古代王朝は、魔法によって香りや味覚の記録を残す技術を持っていたといいます。これは、その名残かと」


「……ってことは、ここにあるのは、スイーツの……レシピ……?」


ミーナが目をキラキラさせながら、柱のまわりをぐるぐる回る。


「おにぃ、お願い! これ、読み取れないかな! 作ってみたいのっ!」


「いや、いきなり言われても……」


それでも、ルークは柱の前に立ち、手を当ててみた。

すると、ほんのわずかに柱が輝きを増し、ふわりとした甘い風が部屋を包み込んだ。


ミーナが両手を広げてくるくる回る。


「うわぁ~……シナモンと、メープルと……ベリーの匂い! あと、焼きたてクッキーの匂いもするっ!」


(にゃっ……おなか、へったにゃ……)


猫たちがミーナにすり寄りながら、床にごろごろと寝転がる。


「ねぇねぇ、これ絶対に食べられるスイーツあるよね!? 持って帰って、みんなで食べたいっ!」


その瞳は輝きでいっぱいだった。


「……調査隊が来るまでに、記録だけ取っておこう。持ち出しは、後で許可が下りたらにしような」


「はーいっ!」


ミーナはスコップを構えて、猫たちと一緒に柱の周囲をくるくると巡りながら、香りの残滓を記録していった。


そして、イザベルの手帳にはもうページが残っていなかった。


甘味神殿は静かに、ただそこにあり続けていた。


かつて誰かが、大切な味を記録として残したこの場所。


今、ミーナたちの手によって、新たな“記憶”が呼び起こされようとしていた。

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