「完成!?ロイヤルスイーツ」
こうして、王妃をも巻き込んだ“ロイヤルスイーツ開発編”は、さらに予測不能な展開を迎えようとしていた──。
◆完成したロイヤルスイーツ
“湖の精涙草”──
薄桃色の透明な花弁は、少しでも熱を加えると儚く香りを失ってしまうという繊細極まりない食材だった。
その横で、ギャリソンは必要に応じて助言をしつつ、花弁の保管や温度調整に奔走していた。
そして、数日後──
「この花……どうしたら香りを残せるのかな……」
ミーナは腕を組んで唸り、猫たち──ティノとシエル──も、真剣な顔でレシピの紙を見つめていた(読めてはいない)。
「この前のタルトの生地、焼かずに冷やし固めるのはどう?」
「にゃー!(それだ!)」
ミーナは冷蔵庫で冷やし固めたタルト台に、丁寧にスピリティア・フローレと自家製とまとコンフィチュールを重ね、幻蜜花のジュレをほんのり重ねて閉じ込めた。
「よし……! 出来たよ!」
その名も──『紅露の花園』。
可憐な見た目、口に広がる柔らかくも重層的な香り、トマトの旨味がもたらす深い余韻。
まるで宝石のような一品だった。
「ミーナちゃん、すごいわ……」
セレナは本気で感心し、侍女たちは感嘆の声を漏らし、執事ギャリソンに至っては目頭を拭いていた。
◆王妃、試食す──
「ふふ……では、いただきますわね」
王妃エリザベートが優雅にフォークを手に取り、ひと口。
──その瞬間、サロンの空気が変わった。
花園を思わせる香りがそっと口中に咲き、甘さと酸味が静かに、だが確かに調和し、広がっていく。
「……これは……」
王妃はしばらく言葉を発さず、静かに目を閉じた。
やがて、ふわりと笑みを浮かべる。
「……これは、まさに“驚き”ですわ。予想を超えていた……」
その一言に、サロンの全員が固唾を飲んでいたことに気づき、ほっと息を漏らした。
「完成です。これこそ、王族の名を冠するにふさわしいスイーツ──いえ、“芸術”ですわ」
ミーナの目が潤み、ティノとシエルがぴょんぴょん跳ねながら祝福の舞を踊る。
「やったねっ、ティノ、シエル! みんな、ありがとぉ!」
王妃は満足げに紅茶を口にしながらも、どこかまだ愉快そうな表情を崩さなかった。
「さて、これを王都に持ち帰ったら──どうなるかしら」
◆そのころ、ルークは
「……あれ? なんか今日は、いつもより静かだな」
屋敷裏の畑で、変わらず土を耕すルーク。
「ま、なんか騒ぎが起きてないならそれでいいか」
横で猫の一匹がくしゃみをした。
「……まあ、いつも通りが一番だよな」
そう呟いたルークの背後で、王国の菓子文化に大変革が訪れようとしていることを、本人だけが知らなかった。
◆新たなる噂
数日後、『紅露の花園』はセレナの名を通じて領都の上流階級に広まり始め、やがて王妃の手によって王都へと持ち込まれた。
王宮の菓子職人たちは驚きと興奮に包まれ、そのレシピを再現しようと挑戦する者が後を絶たなかった。
──だが誰ひとり、ミーナと猫たちのようには作れなかった。
「この香り、どうやって残したんだ……? まるで魔法だ」
そう、魔法だったのかもしれない。
スピリティア・フローレの儚い香りと、ルークの畑で育った特別なトマト。
そのふたつが出会い、ミーナの想いが込められたことで──ただのスイーツではない“物語”が生まれた。
“令嬢の奇跡”──
そう称されるその菓子は、後に王国のスイーツ史に名を刻むことになる。
だが当の本人は、次なる挑戦に向けてもう前を向いていた。
「つぎはね……お肉スイーツ!?」
「にゃー……(また変なこと考えてる……)」
猫たちは額に肉球を当てながら、次なる冒険に備えるのであった──。




