「セレナとお菓子共同開発?」
「とまとタルト、作ってみたいの」
ミーナの言葉に、セレナは目を輝かせた。
「それなら、領都の私の屋敷で試作してみない? ちゃんとした厨房もあるし、菓子職人もいるわ」
「えっ!? ほんと!? いくーっ!」
猫たちもにゃにゃっと鳴きながら飛び跳ねた。
ルークはといえば、ミーナの勢いに押される形で同行することに。
領都の貴族の屋敷なんて、落ち着かないどころの話ではなかった。
──そして数日後。
セレナの屋敷に招かれたミーナとルークは、広大な厨房に案内される。
ミーナは早速、菓子職人と一緒にフルーツパイや焼きプリン、トマトとハチミツのタルトなど、次々と試作を始めた。
「うおお、なんかすごいことになってきたな……」
一方のルークは、あまりの貴族空間に居心地の悪さを感じ、屋敷の裏庭の一角を借りて、勝手に畑を作り始めていた。
「……うん、やっぱり土いじってる方が落ち着く」
しばらくして、猫たちも厨房の喧騒から抜け出してルークの畑に集まってくる。
ティノは大葉の苗にじゃれつき、シエルはミニトマトの茎に抱きついて転がっていた。
◆王宮では……
一方その頃──
王宮では、午後の陽が差し込むサロンで、王妃エリザベートが退屈そうに紅茶を啜っていた。
「今日のお茶会もつまらなかったわ……。何か面白いことないの?」
そんな折、侍女が小声で最新の噂を耳打ちする。
「領都で、またあのトマトの村の子が……今度はお菓子開発に関わっているそうで……」
「まあ……また何か始めたのね、あの子たち」
エリザベートの瞳が、まるで狩りを前にした猛禽のように鋭く光る。
「……セレナ嬢の屋敷にいるの?」
「はっ、はい。ただ、現在はお忍びで──」
「関係ないわ」
王妃はすぐに筆を取り、セレナに直筆の手紙をしたためる。
その内容は簡潔だった。
《そのお菓子開発、私も見たいのだけれど、いいかしら?》
◆王都脱出
数日後。
王宮を抜け出すために「領都での視察と文化交流」の名目をでっち上げた王妃は、控えめ……に見せかけた、装飾を抑えた白金の馬車に乗り込んだ。
その後ろには、控えとして騎士団数名。
本来の控えめとはほど遠いが、王妃の強行に誰も逆らえない。
「ちょ、ちょっと……! 王妃様!? なぜ騎士団まで──」
「だって、道中が危ないかもしれないじゃない」
「ここ百年、山賊なんて出てませんが……」
「備えよ常に、ですわ」
そんな騎士団の中には以前ミーナに「王子さま・・・」と言われた近衛騎士団の団長が浮かれながら指揮を執っていた。
王様は頭を抱え、宰相は机に突っ伏し、文官たちは見て見ぬふりを決め込んだ。
こうして王妃は晴れやかに王都を出発した。
◆再会の時
その日の午後。
セレナの屋敷にて、新作タルトの試食中だったミーナとルークのもとに、ふいに騎士が駆け込んできた。
「セレナ様、大変です! 王妃陛下が……! お見えになりました!!」
「えっ」
「……また、勝手に……」
セレナは額を押さえつつも、整った笑みを浮かべた。
そして現れた王妃は、ミーナを見つけるなり、満面の笑みで手を広げた。
「まあまあ! ミーナちゃん、またあなたなのね! 今日はなにを作っているの?」
「えへへー、“とまとハチミツタルト”だよっ!」
「素晴らしいわ。お味、楽しみにしてるわよ」
ティノとシエルは緊張したのか、王妃の足元でピシッと直立(?)していた。
◆そして新章へ
こうして──
領都のセレナ邸に、ミーナ、ルーク、猫たち、そして王妃までが加わった“お菓子開発会議”は、かつてない盛り上がりを見せていくのだった。
果たして次なる新作は何になるのか──?
王都、いや王国を巻き込むスイーツ騒動の幕開けであった。
いや、マジで!?(ルーク)




