「ミーナのいちにち」
ミーナは、毎朝いちばんに「おはよう」を言います。
おとうさんよりも、おかあさんよりも、もちろん、にぃにぃよりも早く。
猫さんたちよりも、です!
「ふふーん♪ 今日もミーナがいちばん早起きだもんね!」
まだお日さまが空の下のほうで光っている時間。ミーナは自分で布団をたたみ、顔を洗うために庭へ向かいます。
冷たい井戸水でぱしゃぱしゃっと顔を洗っていると、物音がして、猫さんたちがのそりのそりと目を覚まし始めます。
クロがまず伸びをして、モモがあくびをして、シロは──まだ丸くなって寝ています。
「ふふ、シロはお寝坊さんね……。よいしょ、もう少し寝てていいよ」
ミーナはそっと毛布をかけなおして、起こさないようにしてあげました。
猫たちと一緒に畑へ向かうと、ミーナは赤い案山子さんに手をふって挨拶します。
「おはようございます、案山子さん!」
風がふいて、案山子さんの腕がふわりと揺れます。
「うふふ。今日も仲良しだね、案山子さん」
そのあと、猫たちと水やりです。
「はい、なすびさんにたっぷり。きゅうりさんもね。あ、でも……」
とまとさんには、ちょっとだけ。
「にぃにぃが言ってたの。“お水あげすぎると薄くなっちゃうよ”って。だから、ちょっとだけね」
猫たちも後ろで「にゃー」と声を合わせてお手伝い。しっぽをぴんと立てて歩く姿に、ミーナはうなずきます。
「みんな、お利口さん!」
朝ごはんの時間が近づいてくると、家に戻ってお台所へ。
「おはよう、ミーナ。今日もお手伝いお願いできる?」
おかあさんはにこにこしてそう言ってくれるけど、おとうさんはちょっと困った顔。
「火はまだ危ないから、包丁も……」
「……でも、ミーナはお手伝いできるんです!」
野菜を洗って、お皿を出して、拭いたり並べたり。
「にぃにぃのぶんは大きいお皿で~っと……」
そこへ、猫たちにぺたぺた起こされたにぃにぃが、寝ぼけ顔でやってきました。
「猫たちはほんとにお手伝いできて、相変わらずすげーなぁ……」
その言葉に、ミーナはちょっとふくれっ面になります。
「……ミーナだって、すごいんです。えらい人には、わからないんですっ!」
そうして朝ごはんをみんなで食べて、片づけをして、また畑へ。
ミーナは働き者なのです。にぃにぃに負けません。
畑では、案山子さんに今日も挨拶をして、葉っぱの様子を見たり、虫さんがいないかチェックしたり。
猫たちは気ままに歩き回っていますが、ちゃんとミーナの後をついてきます。
そのとき──
「ミーナちゃーん、あーそーぼー!」
村の子どもたちが駆けてきました。
ミーナは畑を見回し、「……おしごとしてるんですけど」と言いかけましたが、
「すこしだけ、遊んできますっ!」
と、元気よく走り出しました。
森の近くまで行って、みんなで野草を摘みます。
「これ食べられるやつだよね?」「こっちはお花~!」
お花を髪に飾ったり、猫たちに冠をつけたり。
でも、ミーナは忘れていません。
「これ、スープに使えるって、おかあさんが言ってたの!」
ちゃんと、使えそうな野草も集めます。
遊びながら、働きながら。ミーナはいつでも“働き者”なのです。
そのうち鬼ごっこが始まりました。
「ミーナ鬼だー!」「つかまえろー!」
ミーナはにっこり笑って、マントをひるがえします。
「ふふふ。三倍速いマントがあるので、ミーナは負けませんっ!」
風を切って走る姿に、猫たちも目を丸くして追いかけます。
気がつけば、お昼の時間。
「ばいばーい!」「また遊ぼうねー!」
子どもたちと別れて、家に帰ります。
だけど──
「あっ、野草……落としちゃった……」
ミーナの手は空っぽでした。
でも、ふり返ると猫たちが、ぽとん、ぽとんと、お花と野草をくわえて持ってきてくれていました。
「……さすがですっ!」
お昼ごはんを食べたあとは、ちょっと眠くなって──
「にゃ~……」「ん~……」
猫たちが丸くなって寝るのを見ていると、ミーナもふわりと眠くなって……
みんなでいっしょ、ぐっすり、お昼寝です。
目が覚めたら、また畑!
ミーナは、もちろん働き者ですから!
猫たちは「また行くの?」という顔をしていますが、気にしません。
「にぃにぃのいる畑に、ダッシュなのですっ!」
おとうさんも、おかあさんも、にぃにぃも。
みんなでお日さまが傾くまで畑仕事。
土に触れて、葉っぱを見て、お花を数えて、虫さんを追い払って──
夕方、先におかあさんと帰って、夕ごはんの準備をします。
「今日は何つくるの?」「ミーナも手伝うのです!」
お野菜を洗って、皮をむいて、お鍋にぽとん。
ミーナはきっと、お料理もじょうずなのです。
猫たちはしっぽをふりふりしています。
……なぜでしょう?
やがて、おとうさんとにぃにぃが帰ってきました。
「ただいまー」「ごはんできたー?」
「できてます! たっぷりです!」
今日も畑でとれたお野菜がいっぱいの夕ごはん。
ミーナが手伝ったので、おいしさ三倍です。
にぃにぃはにこにこして、
「今日も天使が作ってくれたのか……」とか言っていますが──
ほっとくのです。
食べ終わったら、ぬらしたタオルで体をふきます。
前に温泉に入ったのが、ミーナは少しだけ恋しいです。
でも、ミーナは天使なので、わがままや無理は言いません。
ふとんに入ったら、猫たちがやってきます。
「さぁ、猫さんたち、いらっしゃい!」
……でも、
「う~~~ん、暑いのです! もう少し離れて寝てくださいっ!」
ぷくっとほっぺをふくらませながら、ミーナは布団の中でくるくる。
そんなふうに、今日もミーナのかわいい一日が、静かに、楽しく、終わっていくのでした。




