「ミーナの笑顔はつづく」
――その後。
大きな事件はあったものの、残された休暇の時間はわずか。だが、それを楽しむように、屋敷には穏やかな笑い声が戻ってきた。
ミーナは猫たちと、庭の芝の上を駆け回り、リリアーナとイザベルと一緒に秘密基地づくりを始めていた。木陰に毛布を広げ、お茶ごっこやお店屋さんごっこに夢中になる三人。
「いらっしゃいませ~! 本日のおやつはクッキーとにゃんこまんじゅうでーす!」
「おいしそー、ミーナ、いっぱい買うー!」
「ねぇねぇ、看板もっと可愛くしようよ、リリアーナ!」
と、はしゃぐ少女たちの声が風に乗って屋敷の中まで届く。
その一方――。
「そこが甘い!」
「ぐぇっ! ま、またですか父さん……」
裏庭では、ルークが木剣を持ってアベルにしごかれていた。
「お前、自分の体を守る気あんのか!? そんなんじゃ農具を構えても一撃でやられるぞ」
「畑仕事に殺気はいらないと思うんですけどぉ!?」
「甘い! 畑を守る農夫は最前線だ!」
顔を真っ赤にして振り下ろすルークの剣は、また軽く受け流された。
一方、屋敷のサロンでは、セレナがレイナに張り付いていた。
「ねえ、レイナさん! わたしにも魔法って使えるようになります!? 火とか氷とか、あと召喚獣とか!」
「召喚はちょっと特殊なのよ? 魔力適性もあるし……まずは基礎のエレメントコントロールからね」
「や、やっぱりそっからなんですね!?」
「でも、セレナさんなら意外と向いてるかもしれないわ。あなた、直感的で勢いがあるもの」
「ほ、褒められてるのかな!?」
サロンの奥では、メイドたちが静かにティーセットを整えながら微笑んでいる。
ギャリソンは変わらず控えめに給仕をし、時折ミーナたちの遊びを見に中庭へ出ていた。
こうして、再び平穏な日々が戻ってくる。
まるで何事もなかったかのように――けれど確かに、何かが変わった。
空気が澄み、森がやさしく息づく。
ミーナの笑顔は、まるでそれを祝福しているかのように、光の中で輝いていた。




