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「執事の名は…」

気が付くと、苔むしていたはずの祭壇がいつの間にか清められたように輝いていた。あの柔らかな光が、大地だけでなく時間の汚れまでも洗い流したのだろうか。


 ミーナがそっと目を開けると、そこには明るくなった広場に集まる皆の姿があった。猫たちはミーナの周りでくるくると踊り、葉を咥えてプレゼントのように差し出してくる。ミーナは「ありがとう~」と笑いながら、それを一匹ずつ撫でていく。


 ルークもようやく立ち上がり、祭壇の下へ降りる。足元の草花は瑞々しく、生まれ変わったような森の香りが辺りに満ちていた。


 広場の中心で、ミーナがくるりと一回転。「わたし、がんばったぁ~!」と誇らしげに言うと、猫たちが一斉に「にゃー!」と鳴いて称賛の声をあげる。


 その様子を少し離れて見ていたアベルとレイナが、顔を見合わせた。


「……やっぱり、あの子はただ者じゃないわね」


「女神さまに、愛されてるんだな。きっと」


 レイナが静かに呟くと、アベルも深く頷いた。


 それを聞いていたルークが、心の中でちょっとだけ複雑な気持ちになる。


(じゃあ……俺は……?)


 頭に浮かんだのは、前に見た妙にチャラいスーツの男の顔。妙にウインクが多くて、やたらと爽やかな……。


(俺はあいつに愛されてんのかよ……いや、勘弁してくれ……)


 目頭を押さえるルーク。その様子にセレナが首を傾げたが、気にしないことにした。


「それにしても……」ルークが前を向く。「あんた、マジですげーよ!」


 そう言って感心したように近づいたのは、ミーナを祭壇まで運んだ執事。


「そーいや名前、聞いてなかったな」


 その言葉に、執事は一歩前に出て、丁寧に一礼した。


「わたくしめ、“ギャリソン”と申します」


 名乗ったその姿は、どこまでも隙がなく、上品で、どこか懐かしい響きすら感じさせた。


(ギャリソン……昔、どこかで聞いたことがあったような……?)


 そんなことを思いながら、ルークが振り返ると――


「さあ、帰りましょう!」


 レイナが手をぱんっと叩いて呼びかけた。


「……俺、裸足なんだけどぉ……」


 アベルが半泣きの声を出す。凍って砕けたブーツのせいで、足がじんじんしているらしい。


「まあ、あなたなら大丈夫でなくて?」とレイナが微笑むと、皆から笑い声がこぼれた。


 猫たちが先に駆け出し、ミーナがそのあとを元気に追いかける。


「まってぇ~!」


 ルーク、セレナ、アベル、レイナ、ギャリソンも続き、夕陽に染まり始めた森をあとにした。


 柔らかな木漏れ日が、彼らの背を優しく照らしていた。


 そして――森の奥に残された祭壇には、ミーナの祈りの名残のように、淡い光の粒がふわふわと舞っていた。

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