「捜索隊」
翌朝。朝霧が湖の水面をゆらゆらと漂い、森の木々の間から差し込む朝日がまるで金の糸のように光を織りなしていた。
「おっはよぉぉぉ! ミーナ、さくせんたーい、しゅっぱーつだよぉっ!」
いつもよりちょっと早起きしたミーナは、ふわふわの髪を跳ねさせながら元気いっぱいに手を振る。猫たちも続いて伸びをしながら、「にゃっ」と返事をしてついていく。
ルーク、セレナ、ミーナ、そしてイザベルの執事が、森の奥へ向かって歩みを進める。
森の入り口は、まるで物語に出てくる妖精の庭のようだった。木漏れ日がキラキラと葉を照らし、緑の絨毯のような草が足元に広がっている。小鳥のさえずりが朝の空気に溶け、ミーナは「ここ、おとぎばなしみたいだねぇ」と目を輝かせていた。
猫たちも草の間を走り回り、蝶を追いかけたりして、しばらくのあいだはまるで遠足のような雰囲気だった。
しかし、進むにつれて木々の密度が増し、陽の光が届かなくなると、空気の温度がひやりと変わった。
青々としていた緑もどこか陰を帯びはじめ、森のざわめきが不穏なささやきのように耳に残る。ミーナの足取りも少しずつ遅くなり、猫たちも尻尾を立てたまま、周囲に目を配るようになる。
「……なんだか、ここから先は空気が変わった気がする」
セレナが眉をひそめて周囲を見回す。ルークは剣の柄にそっと手を添え、目を細めて前を見つめた。
「……見えるもんだけが脅威じゃねぇってことか」
森の奥に、まるで何かが息をひそめて待っているかのような気配があった。しかし、それが何かはわからない。
結局、正午が近づく頃になっても明確な手がかりは見つからず、皆、汗と緊張で疲労をにじませながら森を後にした。
――別荘へ帰還――
森を抜けた瞬間、冷たい湖の風が頬をなでた。木漏れ日のない森の中とは対照的に、丘の上に建つ別荘は明るく開放的だったが、その光さえも、今の彼らにはまぶしすぎる。
「つっかれたぁぁ……」
ミーナがへたりと芝の上に座り込み、猫たちもぺたんとお腹をつけてごろりと横になる。
「ごめんねミーナ、無理させたわね」
セレナがしゃがんでミーナの肩を抱くと、ミーナはにっこりと笑った。
「ううん、だいじょーぶっ。だけど、おひるごはんたべたい……」
その瞬間、別荘の玄関が開いて、見覚えのある二人の姿が現れた。
「ルークー! おい、ちゃんと飯食ってるか?」
「ミーナ! 会いたかったわぁ!」
そこに立っていたのは、ルークの父アベルと母レイナだった。
「ちちぃぃぃぃい! はぁはぁぁぁぁあ!!」
ミーナが飛びつき、ルークも「なんでここに」と驚いた表情を見せる。
「イザベル嬢からお手紙をいただいたのよ。リリアーナ嬢のこと、もう聞いてるわ」
レイナの声には優しさと、それ以上の決意がにじんでいた。
「午後からは私たちも一緒に捜すわ」
アベルも頷き、剣の鞘を軽く叩いて言った。
「森のことは、昔から噂があった。だが娘が関わってるとなれば、黙って見てられねぇ」
風がまた、森から別荘へと吹き抜けた。
その中で、ルークたちの表情には新たな気合いが灯る。
「よし、じゃあ午後は家族総出で行こうか」
「うんっ!」
ミーナも、先ほどの疲れがうそのように元気に拳を上げた。
その背中を、猫たちが誇らしげにぴんと立てた尻尾で追っていた。




