「湖畔の別荘で」
――湖畔の別荘で――
招かれた別荘は、美しい湖と涼やかな森に囲まれた、まるで貴族の夢を詰め込んだような高級リゾート地だった。屋敷の敷地は広大で、遊歩道の先にはプライベート桟橋、温室には色とりどりの花が咲き誇り、まさに非日常の優雅さがそこにあった。
ルークもミーナも、普段の農家暮らしとは違う空気に、最初こそ少し戸惑ったものの、すぐに馴染んだ。特にミーナは、広い浴場に感動し、泡風呂にはしゃぎ、見たこともないお菓子に目を丸くして大はしゃぎ。猫たちも、広い庭で追いかけっこをして自由気ままに過ごしていた。
そして、滞在初日の午後。もうひとりの客人が現れた。
輝くような金髪を揺らし、宝石のような瞳をきらきらと輝かせて、大きな白馬の引く豪華な馬車から優雅に降り立ったのは、リリアーナ嬢だった。クリーム色のレースをあしらった華やかなドレスに、繊細な帽子をあわせた姿は、まるで物語の中のお姫様のよう。
「まあ……!この子が、噂のミーナちゃんなのね!?うっそ、うそみたいにかわいいっ!!!」
リリアーナは姿を見るなり、がばっとミーナに抱きつき、ほっぺをぷにぷにしはじめた。
「みーな、くすぐったいぃぃ~」
「ふふふ、やだやだ、だってこの小ささと柔らかさ、反則じゃない!?天使?妖精?もう何!?ねぇ、どこからきたのこのかわいさ!?」
その姿に猫たちも「にゃーん」と寄ってきた。リリアーナは猫たちを見てさらに目を輝かせる。
「わぁぁ、自由でいいわねぇ……わたしも猫になりたい……このまま森で暮らしたい……」
完全に壊れたテンションに、イザベルが苦笑しながら「リリアーナ、おちついて」と声をかけ、セレナも肩をすくめていた。
それでも、リリアーナの明るさと陽気な態度は、すぐに皆の笑顔を誘い、屋敷にもうひとつ賑やかな空気を加えていった。
そして、滞在から三日目の朝、事件は起こった。
「ねえ、イザベル様。昨晩の舞踏会にいらしていたリリアーナ嬢、見かけませんでしたか?」
召使いのひとりが不安そうに声をかけてきた。
部屋にも姿がなく、着替えもそのまま。まるで忽然と姿を消したようだった。
空気が変わった。湖から吹きつける風が、どこか冷たく感じられた。
セレナとイザベルは、すぐに屋敷内と敷地の捜索を開始するよう手配した。ルークも「何か手がかりがあるかもな」と、ミーナの手を取りながら協力を申し出た。
ミーナは少し心配そうに空を見上げて、「リリアーナおねーちゃん、かくれんぼかな……」とつぶやいた。
そして、また物語の歯車が、静かに回りはじめるのだった。




