「ミーナ、雨にふてくされる」
「雨、きらい……」
窓辺でほっぺをぷくっとふくらませたミーナが、何度目かのため息をついた。
空はどんより灰色、麦畑もしとしと濡れている。鬼ごっこも、かかし番もできない。
「うぅ〜〜ん……ミーナ、たいくつでしぬぅぅぅ……」
部屋の中をぐるぐる歩き回ったかと思えば、俺の背中にぴとっと張りついてきた。
「兄ぃ〜〜〜……ミーナ、もう、こわれそう……」
「おまえは精巧な人形か」
「兄がなんとかしなさいよぉ〜〜〜……」
妹が“構ってください”モードに突入していた。これは……対処を間違えると一日ぐずるやつだ。
よし、俺に任せろ。
—
数十分後。
部屋の中央に、俺の“社畜脳アート魂”を注ぎ込んだ作品が完成した。
「じゃじゃーん! ミーナ専用・おうち秘密基地、名づけて“もふもふ要塞”だ!」
椅子と毛布と洗濯ばさみを駆使して作った小さなテント。
中にはぬいぐるみとクッションと、手作りお菓子入りのかご。
入り口には、ちゃんと名前入りの札まで下げてある。
「……っ!? ミーナの……おうち!? もふもふ!?」
「中、けっこう広いぞ。おやつ付きだ」
「に゛い゛ぃぃぃぃ!! しゅごいっっ!!!」(※喜びがすごすぎて語彙力が壊れた)
—
数分後、
ミーナはテントの中で、クッションに埋まりながらチョコをもぐもぐ食べていた。
「ミーナ、ここに住む!」
「おい、それは俺の毛布なんだが」
「雨、きらいじゃないかも……へへへ……♡」
満足そうに笑うミーナを見て、俺はちょっとだけ胸を張った。
たぶん、明日も雨でも大丈夫だ。