森は変わっていく
ざわ……っと風が通り抜けた森の奥から、一人の老婆が現れた。
白髪をふわりとまとめ、草木で編んだような包帯のような衣を身にまとったその姿。
「おばぁぁさぁ~ん!」
ミーナがぱぁっと笑顔になり、かわいらしい声で叫びながら駆けていく。
「ミーナ、待て!」
ルークは思わずハッとし、慌ててその後を追った。
「え……誰? あれ?」
亮と美月が顔を見合わせた。
やがて、ミーナはおばあさんの服の裾をきゅっと掴みながら、二人がいる丘の真ん中まで戻ってくる。
ルークは少し警戒しつつも、一緒に歩いていた。
「あらあら、どうしたのかねぇ」
おばあさんの声は、風に乗るように穏やかでやさしかった。
「ミーナねぇ、ミーナねぇ、あの蜂蜜でおいしい物たくさん作ったんだよ!!」
「おぉぉ、そうかいそうかい。それは良かったねぇ」
にこにこと頷くおばあさん。
「なんか不思議なおばあさん出てきましたよ、先輩」
「……あぁ、女将ほどじゃないけどな」
「ですね(笑)」
「今日はどうしたんだい、大勢でやってきて、ん?」
「ミーナたちねぇ、探してるのぉ!」
「はいはい、何を探してるんだい?」
「えっとねーえっとねー、へんなにおいのするやつ!!」
「それじゃあわからないだろ、ミーナ……でも可愛いから大丈夫だぞ」
ルークは内心でフォローを入れながら、亮が話すのを待つ。
「すみません、俺たち温泉を探しているんです」
「えーっと、ミーナちゃんが前にこの森で変わったにおいをかいだことがあったらしくて」
「なるほどねぇ……なるほどねぇ」
おばあさんはじっと二人を見つめ、不思議そうに目を細めた。
「心当たり、有りませんか?」
「うん、じゃあちょっとついておいで」
「おっ……ついに温泉が……!」
亮の心が高鳴る。ルークは一歩引きながらも、おばあさんの足取りに注意を向けていた。
ミーナはその間も猫たちと草の上でくるくると踊っている。
──ああ、やっぱりミーナは天使だ。
ルークの脳裏には、そんな言葉しか浮かばなかった。
おばあさんに続いて、森の奥へと進む一行。
だが、さっきまで清々しかった森の雰囲気が、次第に変化していった。
空気が重く、木々が音もなく揺れている。小鳥たちの声も遠ざかり、地面の苔は濃く深く、まるで誰かの足跡を吸い込んでいくかのようだった。
やがて、淡い霧が足元から立ちこめ始める。
「せ、先輩……これって……」
「……ああ、あれかもしれん」
「なんだよ、あれって……」
「わぁぁぁ、まっしろぉぉぉ……」
ミーナが嬉しそうな声で叫び、手を伸ばして霧をすくう。
その姿に猫たちが反応し、くるくると跳ねながらも、どこか警戒するように「カチカチ」「ケケケ」と鳴き始める。
「なんだこの感じ……やばくないか……」
ルークは、ミーナの手をしっかりと握りまわり)警戒した。
だが、そのとき──森の奥から、ぼんやりと湯気が立ち上っているのが見え始めていた……。




