そして森へ
──翌朝──
「おはよう」
朝日が窓から差し込み、まだひんやりとした空気の中、亮が静かに声をかける。
「おぉ、亮か……おはよう。眠れたかい?」
ルークが眠たげに目をこすりながら、大きく伸びをした。木の床がみしりと鳴る。
「おはようございます」
レイナがやわらかな笑みを浮かべて現れ、木製のカップを静かにテーブルへ並べる。その中には香ばしいハーブ茶が注がれていた。
「あっ、おはようございます。亮です」
亮も立ち上がり、丁寧に頭を下げる。ふと気づいたようにあたりを見回す。
「……ん? 美月は?」
「ミーナたちはまだ寝てるよ(笑)」
ルークが肩をすくめて笑い、指先でカップをくるりと回す。
そのとき、レイナがふわりと立ち上がった。
「猫さんたちぃ、起こしてきてくれるかしらぁぁ」
「にゃあにゃあ」
何匹かの猫たちが、返事をするように小さく鳴きながら、軽やかに階段を駆け上がっていく。
(……ふしぎなねこだなぁ、おい)
亮が思わず心の中でつぶやいたそのとき、
「おにぃぃぃぃ、おはよぉぉぉ!!」
階段の上から勢いよく飛び出してきたミーナが、笑顔いっぱいでルークに抱きついた。
「おはよう、ミーナ」
ルークは小さな体を優しく受け止め、頭をなでてやる。
「せんぱぁぁい、おそようございまぁす」
「何言ってんだよ、お前は……」
亮が目元を緩めながらも、あきれたように頭をかいた。
「みんな、顔洗ってきなさぁぁい。ご飯にしますよ〜」
レイナの声がキッチンから響き、家の朝が一斉に動き出す。
*
「先輩、昨日の夕食の時も思ったんですけど……お野菜がとてもおいしいんです」
美月が木製のスプーンですくった温かい野菜スープをふぅふぅと冷ましながら口に運ぶ。
「ああ、めちゃくちゃうまいよな、ここの野菜」
亮も木のフォークで根菜を刺し、しみじみと頷いた。
「お野菜はねぇ、おにぃが育ててるからおいしいんだよぉ」
ミーナが自慢げに胸を張る。
「そんなこと言ったらお父さんがすねちゃうわよぉ」
レイナがくすくすと笑いながら、食器を拭きはじめる。
「あれ? 旦那さんは?」
亮がきょろきょろと辺りを見回す。
「アベルなら、もう畑に行ってるわ」
「流石、農家ですねぇ」
美月が感心したように微笑む。
*
「母さん、今日はこの人たちとちょっと森まで行ってくるよ」
ルークが背負い袋を整えながら言う。袋の中には木製の水筒と手作りの弁当、冷たい麦茶の小瓶が詰まっている。
「もぐもぐ、ミーナもぉ……もごご」
「ちゃんと飲み込んでから話しなさい」
レイナが優しくたしなめ、ミーナはぺろっと舌を出して頷いた。
「はぁぁい!」
「気をつけていってらっしゃいね。……後片付け手伝ってちょうだい」
「うん、母さんありがとう」
「おにぃぃ、とまと持ってくぅ〜」
ミーナが元気よく立ち上がり、小さな籠を手に取る。
「うんうん、今日もミーナは天使だなぁ」
ルークが微笑みながらその頭をぽんぽんと撫でた。
「じゃあ、行こうか」
「ミーナねぇ……あの場所……覚えてない……」
少し不安げに俯くミーナ。
「大丈夫、大体の場所はおにぃが覚えてるから」
その言葉に、ミーナの顔がぱっと明るくなる。
*
朝の森。
木々の梢から差し込む光が、地面の露に濡れた草を金色に染める。
やわらかな風が葉を揺らし、さわさわと涼やかな音を奏でる。
ルーク、ミーナ、亮、美月、そして猫たちが、けもの道を一列になって歩いていく。
「とりあえず、危険な動物はいない感じだなぁ……」
ルークが周囲を見渡しながら小声で呟く。
「先輩、きっとフォースですよ、フォースで感じてるんですよ!」
「お前はいつも楽しそうで羨ましいよ(笑)」
亮が苦笑しながら、目の前の景色に視線を馳せる。
鳥のさえずり、木々の香り、湿った土の匂い。
あらゆる感覚が、静かに彼らを包み込んでいた。
やがて、小高い丘の上にたどり着く。
そこから見渡す森は、朝の静けさをそのままに、やわらかな陽光に包まれていた。
「……あったかいな、ここの朝」
亮がふと呟く。
その言葉に、誰もが足を止めた。
一陣の風が頬を撫で、鳥の羽ばたきが空を横切る。
「ここだよ……たぶん、あの蜂蜜のおばさんと会ったの」
ミーナが振り返り、そっと口にした。
その声に、全員の表情が引き締まる。
「じゃあ、もう少しこの辺を探してみるか」
朝の光が、静かにその丘を包んでいた。




