第一村人?ミーナ
──そして、季節は巡る。
寒さもやわらぎ、春が来て、夏がやってきた。
畑は青々と茂り、トマトもぷっくりと実って豊作だった。
「おにぃ〜っ、ミーナね! かかしさん見に行ってくるぅ〜〜!」
ミーナは今日も元気いっぱいに、麦わら帽子をかぶって両手を広げて走り出す。
ルークは少し寝ぼけまなこで、それを見送りながら伸びをひとつ。
「おー、気を付けて行けよ〜。すぐにお兄ぃも行くからな〜」
猫たち:「にゃー!(了解した!追尾する!)」
ミーナの後をぴょんぴょんと追いかけていく猫部隊。
ふわふわのしっぽが風になびき、野原の花がくるくる舞った。
「……やっぱ、ミーナはかわいいな。世界の中心だな。可愛さの権化」
そう呟きながら、ルークはのんびりとした動作で出かける準備を始める。
よし、着替えよ。
よし、トマトもひとつ持っていこう。
よし、ミーナに麦茶……いや、スイカも……あ、これもう完全にピクニックだな。
「さて、俺も畑に行きますか」
麦わら帽をかぶり、腰にタオルを差したルークが、のんびりと畑への道を歩いていく。
やがて──
遠くに、あの赤いかかしが見えてきた。
──あの赤い案山子は、ミーナと二人で作ったものだ。
赤い布をまとわせ、派手な羽根飾りまでつけて、勝手に「三倍強い」とか言っていた。
もちろん、ルークがそう言ったから、そういうことにした。
その前に──小さな人影がふたつ。
……いや、三つ? いや、四つ?
「……んんん??」
ミーナが──見知らぬ男女と一緒にいる。
猫たちは緊張して周囲を囲んでる。
──危ない!
──ミーナに何かあったら!
──かわいいミーナに何かあったら!!!!!
「ミィィィィーナァァァァァーーーーーーッ!!!」
叫びながら、全力で畑にかけていくルーク。
近づいてはっきり見えてくる。
(……あれ?)
一人は背の高い男性。もう一人は背の低い可愛らしい女性。
どちらも見たことのない服を着ている。どこか洗練されていて、村の服とはまるで違う。
──いや、違う。違いすぎる。
男の服は現代的なシャツとジーンズ。
女の子のほうはTシャツに、可愛らしい花柄のスカート。
スニーカーまで履いている。
見覚えが──ある。
(……まさか、こんなことが……いや、でも、あれは……!)
ルークの頭の中に、記憶の断片が一気に噴き上がった。
──転生前の世界で、何度も見たような格好。
──駅のホームで、カフェで、街角で。
──これは、完全に“あの世界”の服だ。
「ミィィィィーナァァァァァァーーーーーーーッ!!!!!」
焦ったルークは、スイカと麦茶をぶちまけながら畑へと全力疾走した。
帽子は吹っ飛び、猫たちが一斉に「にゃにゃっ!?」と声を上げる。
──何かの冗談か?
──まさか、本当に“向こう”から来た……?
「おにぃ〜? どうしたのー?」
ミーナが振り返って、首をかしげる。
その手には、女性の手が握られていた。
不安げな表情の二人の大人──だがどちらも、何かさっぱりした(そうまるで湯上りのような)雰囲気の、そして明らかにこの世界の住人ではない。
「こ、この人たち……どこから来たんだ?」
「えっとね、案山子さんと居たら、にゃぁ達が最初に見つけ教えてくれたの! おなかが減っているのかなぁ?泣きそうだったの!」
「……ミーナが、第一村人ってことか……」
「だいいちむらびと……?」
「いや、なんでもない」
ルークは息を整えながら、改めて二人を見る。
男は驚いた表情でルークを見ていた。女の子のほうは、ワクワクした目をキラキラさせていた。
──そのとき、ルークは確信した。
(この二人……俺と同じ、“あの世界”から来た……でも)
畑の風が吹き抜け、赤い案山子の布がひらりと舞った。
空は高く、夏の雲が流れていく。
この出会いが、またひとつの“始まり”になることを、ルークはまだ知らなかった。




